第7章 君に負けたくない
ヴィランボットの群れを抜けた先、
私は風を抜けて、静かに地面へと着地した。
翼をたたむ。
空を駆けていたあいだ受け続けていた風が、ふと止む。
今、ようやく地に足をつけた。
(……ここからは、走る)
まだ先は長い。
無駄に飛べば目立つし、体力も削れる。
“勝つために飛ぶ”のと、“目立つために飛ぶ”のは違う。
(いまは、温存)
そう決めた瞬間、左右から見慣れた気配が並ぶ。
左に、轟くん。右に、爆豪くん。
視線は前――でも、私の動きにはちゃんと気づいてた。
「……降りたのかよ。やっぱな」
爆豪が横目で笑う。
『うん。飛びすぎるとズルいでしょ』
「ズルい言うな。お前の強みだろ」
その声ににじんだ余裕が、少しだけ嬉しかった。
轟くんは何も言わなかったけど、
こっちを見た一瞬の視線に、静かな理解があった。
そして目前に現れる、次の障害――
切り立った崖と、無数のロープ。
「っしゃあァ!!」
爆豪が爆風でワイヤーを踏みつけながら突進。
風圧に、観客席がざわつく。
「……手間だね」
轟くんは氷でワイヤーに即席の道を作り、滑るように渡っていく。
私は――ふたりの真ん中を、静かに見据えた。
(私には、私のやり方がある)
地を蹴る。
ロープにも氷にも触れず、崖を跳び越える。
着地と同時に、次の跳躍。
「お、おい……あの子、飛んでるだけじゃ……!」
「ロープ使ってない!?」「脚力だけで!?」
翼は使っていない。ただの“跳躍”。
でも、私は誰より自由に、進んでいた。
「バケモンがもう一人増えたぞォォ!!!」
プレゼント・マイクの叫びに、会場がどよめく。
「星野想花、崖を跳び越えていくゥゥ!! 足場もロープも関係ねぇ! 空を蹴ってるみてぇだァ!!」
その声を背に、私は黙って進んだ。
どこかで、相澤先生の声が聞こえた気がした。
「……全力じゃないけど、まあ“走ってる”な、あいつなりに」
……そう。私は、まだ全力じゃない。
でも、自分の足で――ちゃんと、進んでる。
そして、目の前に広がるのは――
第3ステージ、“地雷原”。