第7章 君に負けたくない
「おぉぉっとォ!? 見てくれこの動きィィ!!」
プレゼント・マイクの声が、会場中に響き渡った。
「狭い通路を抜け、ただひとり上空に飛び出したこの生徒――翼を使って空を飛んでいる! しかもこの容姿、今まで見たことないぞォ!!」
熱を帯びた実況の声が、会場全体をぐらぐらと揺らす。
――でも、その隣の席。
相澤先生が、静かにモニターを見つめながら、ぽつりと呟いた。
「……星野想花だ。俺のクラスの生徒だよ」
その言葉に、プレゼント・マイクが目を見開く。
「マジかァ!? イレイザーヘッド、あの子が1-Aの……!? って、顔とか髪とか目とか、全ッ然ちがくねぇかァ!?」
「本人さ。個性で偽装してた。理由は……まあ、あいつなりの覚悟ってことだろ」
先生の静かなその一言だけで、会場が一気にどよめきで満たされた。
(……聞こえてる。全部)
スピーカー越しの声。観客のざわめき。驚き。
今、確かに私は見られている。
地上では、A組の皆が空を見上げていた。
「ちょ、あれ……え?まさか……」
「うっそでしょ!? あれ、想花!?」
「髪の色……目も……つか、翼!? 空、飛べたの!?」
「マジで!? 全然気づかなかった……!」
驚き、混乱、目を疑う声が次々に飛び交う中――
爆豪と轟くんだけは、何も言わずに見上げていた。
「……やっぱ、そうかよ」
爆豪がにやっと笑った。
その顔は、どこか楽しそうで、悔しそうで――でも、少しだけ誇らしそうで。
「飛び道具……隠してやがったな」
轟くんは、空に舞う私の翼を静かに見つめながら、
「……見せてやれ」とだけ、小さく言った。
(……ありがとう)
胸の奥で、その言葉だけがそっと灯った気がした。
――そして、目の前に現れたのは、巨大な影。
「きたあああァァ!!」
再びプレゼント・マイクの叫びが上がる。
「続くステージは――おなじみ! ヴィランボット軍団だァァァ!!」
入試のときに現れた、巨大な訓練ロボットたち。
並外れたサイズと威圧感、地上からでは正面突破すら困難な相手。
でも、私は――違う。
(上から見える。死角も、動きも、全部)
風を受けて、大きく翼をはためかせた。
これは、ただの障害じゃない。
“私”として進むための――第一歩だ。