第7章 君に負けたくない
――通路に入った瞬間、空気がぱっと変わった。
前から吹き抜ける冷気が肌を刺す。
見る間に床が凍りつき、狭い通路は一面の氷の世界に変わっていく。
(轟くん……!)
迷いなく、一撃で仕掛けるあれが彼の戦い方。
後ろからは「つっかえた!」「動けねぇ!」と声が漏れる。
細い通路、氷に足を取られ、人数が殺到して大渋滞が起きている。
でも、私は――止まらない。
(今だ)
踏み出した背中から、一気に広がった翼。
大きく輝く羽根が風をはらみ、地を蹴るよりも速く、私は空へと跳んだ。
「……えっ」
「空、飛んで……!?」
「誰!?あの子――」
知らない姿。
名前も知らない“誰か”が、翼を広げて一人だけ空を駆け上がる。
その瞬間、観客のざわめきが高まる。
実況席の声が叫んだ。
「おおっと!?上空に飛んだのは――誰だァ!?今まで誰も見たことのなかった、生徒の姿だァ!!」
『……よし』
冷気の壁を越え、空の風に乗って、私は確実に一歩前へ出ていた。
氷の上で足を取られ、驚く声が周囲から響く。
「誰だよ……あいつ……」
「さっきまでいた?あの子……」
(いいんだ。見てろ)
この空に浮かんだ瞬間から、もう隠れてはいない。
翼を持つ者として、胸を張って勝ちに行く。
――私の戦いは、ここから始まる。