第7章 君に負けたくない
それはいつもの朝のHRの時間だった――。
「……雄英体育祭を開催する。今年も、例年通りな」
相澤先生の気だるげな声が、黒板の前から放たれた瞬間――
教室の空気が、ぱんっ!と音を立てて弾けた気がした。
「うおおおおお!!」
「マジか!?出んの!?あの全国中継のやつ!?」
「テレビ、テレビだよ!?うちの親、絶対録画するって大騒ぎだ……!」
ざわざわと、一気に騒がしくなるクラス。
椅子がきしむ音も、机を叩く音も、あちこちで跳ね回ってる。
“全国中継されるビッグイベント”――雄英体育祭。
名だたるプロヒーローたちが目を光らせるこの行事は、いわばヒーローとしての登竜門。
(……そんな、大ごとなんだ……)
ぽつりと呟いた私の声は、騒がしい空気の中で誰にも届かない。
でも、隣から聞こえてきた声だけは、すごくよく聞こえた。
「……チャンスだな」
そう言った爆豪くんは、ただ前だけを見ていた。
その目は、燃えるみたいにまっすぐで。迷いなんて一切ない。
後ろを振り返れば、轟くんが窓の外を見つめている。
淡い朝の光を浴びて、それでも涼しい顔をしている彼の横顔は、どこか静かな炎を抱えてるようだった。
USJの事件で痛いほど思い知ったこと。
守られるだけじゃ、ここには立っていられない。
自分の足で立ち、自分の手で、未来を掴まなきゃいけない。
まだ怖さがないわけじゃない。
でも……それ以上に、私も――
(立ちたい。並んでいたい)
教室の喧騒の中、胸の奥にふわりと灯った熱を、私はただ静かに握りしめていた。
――そして、放課後。
ノートと筆箱を鞄にしまいながら、ふと聞こえてきたのは、廊下のざわつきだった。
『……なんか、外……騒がしくない?』
誰かが教室のドアに近づき、そっと開けると――
目の前に広がった光景に、思わず息が止まった。
ずらりと並んだ、見慣れない顔。
A組の前を取り囲むように、他クラスの生徒たちが静かに立ち尽くしている。
その視線が、一斉にこちらに向けられていた。
無言。
でも確かに、あの目たちは何かを告げていた。
(――挑まれてる)
空気が変わった。
ひりつくような緊張。静かだけど、確かに刺さってくる“視線”たち。
(……もう、始まってるんだ)
鼓動が、ひとつ。
私は手の中の鞄の紐をぎゅっと握りしめた。