第6章 また明日
朝の教室は、どこかざわついた空気に包まれていた。
事件から2日。
やっと学校が再開されたとはいえ、生徒たちの間にはまだ少し緊張が残っていて、笑い声も控えめだった。
そんな中で教室に足を踏み入れた瞬間――
思っていたよりもたくさんの視線と声が、一気に私に集まってきた。
「おはよう!もう平気?傷とか残ってない?」
「無理して来たんじゃないよね?ちゃんと休めた?」
その言葉ひとつひとつが、じんわり胸に沁みた。
『……ありがとう。うん、もう大丈夫』
笑ってそう答えたときだった。
「……おーおー、モテてんな」
聞き慣れた、ちょっと低めの声が背後からふわりと落ちてきた。
振り返ると、教室の後ろから爆豪くんがゆるい足取りで歩いてきていた。
どこか余裕のある笑み。
でも――その目だけは、昨夜と同じ。
何かを知ってる人だけが浮かべられる、あの目。
(や、やめてってば……!)
一瞬で頬が熱くなる。
なのに、彼はそれを楽しむように、唇をにやりとつり上げてきた。
そして――
「……あの顔、オレしか知らねぇとか、な」
ふいに耳元で囁かれたその声に、背筋がぞくっとする。
『っ……ばっ、バカツキ!!』
思わず名前を呼んでしまって、慌てて口を押さえる。
(うそ、今、素で……!)
真っ赤になった私の顔を見て、彼はケラケラと肩を揺らして笑っていた。
その様子を見ていたクラスメイトたちは、ぽかんと口を開けたまま、互いに目を見合わせている。
「……え、今の、どういうこと……?」
「なに?いつの間に!?昨日休みだったよね!?」
ざわざわとざわめく教室。
その中で、窓際に座っていた轟くんがふっと目を細めて、どこか優しく、でも少しだけ寂しそうに笑った。
「……そっか。なるほどな」
そう呟いて、彼は窓の外へ視線を移す。
私はというと、もうどうにもならない顔の熱を抱えながら、自分の席に突っ伏すしかなかった。
(な、なんであいつ……朝からあんな顔で、あんなこと言って……)
心臓が、うるさい。
けど、騒がしいはずのその音が、なんだか少しだけ――
嬉しかった。
(もう、ほんと……バカツキ……)
机の上に顔を伏せながら、つい口元がふにゃりと緩んでしまう。
止まらない心音と、ちょっとくすぐったい朝のはじまり。
今日も、きっと騒がしくなりそうだった。