第6章 また明日
彼の手が、そっと私の頬に触れたかと思った次の瞬間――
もう、唇が重なっていた。
さっきよりも、深くて、ゆっくりで。
でもその中に、どこか切なさが滲んでいて。
(……なんで、こんな……)
胸がぎゅうっと音を立てるみたいに痛くなって、でもそれ以上に、温かかった。
『……っ、ば、くごうく……』
名前を呼びかけた瞬間、すぐに、別の角度からまたキスが落ちてくる。
頬や耳のあたりまで、くすぐるみたいに触れてきて。
「……やり直しって言っただろ」
囁く声が、やけに低くて甘くて。
一気に足元がふわっと浮く感覚に変わる。
『ちょ、待っ……』
「黙ってろ。今、キスしてんだよ」
――何も言わせてくれない。
またすぐに唇を塞がれて、
抗うなんて、そんな余裕、最初からなかった。
呼吸の仕方すら分からなくなるほど、
爆豪くんの熱が、まっすぐに私の心を奪っていく。
ようやく、彼がゆっくりと唇を離すと、
指先がそっと、私の下唇をなぞった。
その仕草に、また息が詰まりそうになる。
「……お前、恋愛する気ねぇとか言ってたけどよ」
くすっと笑う声はいたずらっぽくて、でもその瞳はどこまでも真剣で。
「関係ねぇ。これから、俺のこと好きにさせてやるから」
『……っ』
胸の奥が、また高鳴る。
「なーんも考えられねぇくらい、俺だけ見させてやるよ」
そう言って、もう一度、軽く唇を奪ってきた。
それはさっきよりも短くて、でもずっと熱を残すキスで。
私はもう、言葉も出せなくて。
ただ、彼に溶かされるように、瞬きすら忘れて立ち尽くしていた。
ふっと、満足そうに笑った彼は、ポケットに手を突っ込んで、
ゆるく背を向けた。
「じゃ、また明日。……学校でな」
肩越しに向けられた笑みが、ひどくズルくて、ひどく、愛しかった。
そして――夜の風に背中を押されるように、
爆豪勝己は静かに帰っていった。
残された私は、そっとドアにもたれかかる。
まだ唇に残る熱が、じんと痺れるみたいに心に広がっていく。
(……どうしよう、もう……)
胸の奥が、熱くて苦しくて、
でも不思議と、それが――嫌じゃなかった。