第6章 また明日
爆豪side
靴を乱暴に蹴飛ばして、扉をバンッと閉めた。
「……チッ」
胸の奥が、ざらざらする。
胃がひっくり返ったみたいに気持ち悪ぃ。
頭ん中も、ずっと煩くて熱い。落ち着かねぇ。
「あいつがどうなろうが、俺には関係ねぇし」
……そう思いたかった。
でも、頭から離れねぇ。
――あの部屋に、轟がいた。
平然としたツラでケーキなんざ持ち込んで
何事もなかったように、あいつの隣に座って、
当たり前みたいな顔して――
あいつの空間に、入り込んでやがった。
「……クソが」
自分でも抑えきれねぇ、胸ん中のぐちゃぐちゃ。
(なんなんだよ……クソ、なんなんだよこれ)
必死に噛み殺してた思い出が、急に蘇る。
USJ――
必死に戦って、血塗れになって、それでも誰かを守ろうとしてた、
――あの時の、あいつの背中。
そして――
押し潰されそうな中で、
とっさに抱きかかえた、ふるえる“あいつ”。
逃げ場もねぇ食堂の入り口、混乱の中で。
あの瞬間、確かに――唇が、触れた。
ほんの一瞬。事故だ。
誰にだって、そう言える。
でも。
「……忘れられるわけ、ねぇだろ」
あのやわらかさ。
あいつの肩がふるえた感触も、
目をぎゅっと閉じた顔も――全部。
全部、脳裏にこびりついてんだよ。
あれが、俺の――“初めて”だった。
……誰かを、こんなふうに意識して、
こんなにも、苦しくなるのなんか。
なのに。
あいつはさっき、
ケーキなんざ食って、轟と――
「……あ”ああああああああああああクッソ!!」
思わず立ち上がって、枕を力いっぱいベッドに叩きつけた。
拳を握る手が震える。
目の奥が、ぐっと熱を帯びてくる。
「なんで……っ」
なんで、こんなにムカつく?
なんで、こんなにも引っかかるんだよ。
わかってる。
ほんとは、とっくにわかってるんだ。
(……あれが俺の、“はじめて”だったんだよ)
触れた温度も、心臓の高鳴りも――
ぜんぶ、
ぜんぶ“あいつ”がくれたんだ。
だから、
その笑った顔が、他の誰かのもんになるのが……
悔しくて。
情けなくて。
……どうしようもなく、
苦しかった。