第6章 また明日
爆豪くんの目が鋭く光り、切島が腕を組み、
上鳴と瀬呂は耳打ちしながらクスクス笑ってる。
私はと言えば、顔が火照ってフォークすら持てずにソファで固まっていた。
『……な、なに?なんかあった?』
「それ、こっちの台詞なー」と、上鳴が即座に返す。
「てかさ、なんで轟、朝っぱらからいたんだよ?」
瀬呂が身を乗り出してくる。
『え、いや……その……たまたま、だよ?』
「たまたまでキスすんのか?」
――ピクッ。
空気が止まった。私の肩も、跳ねた。
切島が思わず咳き込んで、
「おい爆豪、今なんつった?」
「いやいやいや!さすがにそれはねーだろって話で!ね!?なぁ!?」
『キ、キスしてないしっ!!してないもん!!!』
全力で否定する声が震える。
(……してたけどっ!!!)
心の中で叫びながら、私はもう崩れそうだった。
でもそのとき――
「……ふーん。キス、してねぇのか」
爆豪くんの声が、低く響いた。
その目は、信じてない。完全に、疑ってる。
『……してない…』
かろうじてそう答えたけど、
(やっぱり……してたけど!!!)
って心の中の私が床に倒れ込んでる。
「じゃあ、あいつが去り際に何でお前のこと、あんな顔で見てたんだよ」
「明らかに“女”見てたぞ?」
「てかさっき、お前の口元、赤かったしな〜?」
……やめて。ほんとにやめて。
轟くんとの空気、こんなにも綺麗でやさしかったのに。
全部、茶化されて、暴かれてく。
バンッ!
突然、爆豪くんが立ち上がった。
「うぜぇ。帰るぞ」
『えっ!?』
「お前らも帰んぞ。甘ったれた空気に当てられて、吐きそうだ」
その言い方はいつも通りぶっきらぼうで、
怒ってるようにも聞こえたけど――
なぜだろう。
その背中が、少しだけ……寂しそうに見えた。
何も言えずに、私はただ、その後ろ姿を見送る。
「あっちゃー…」と切島が苦笑いしながら後を追い、
「またね〜」と軽く手を振って帰っていく瀬呂と上鳴。
バタンと玄関が閉まって、ようやく、静けさが戻ってきた。
そして私は、ソファの上で――
深いため息をついて、顔を両手で覆った。
(いろんな意味で……やばい……)
甘くて、騒がしくて、ちょっとだけ切ない午後の修羅場。
でも、胸の奥にはまだ――
轟くんの残した温度が、静かに残っていた。