第6章 また明日
『え……』
「……俺はただ、どうしてこんなに気になってたのか、知りたかっただけなんだ」
彼の声は、穏やかで、真っ直ぐだった。
「でも、今やっとわかった」
私は、何も言えないまま、彼を見つめた。
「お前が無茶して、誰かを助けたってことが――俺にとって、すごく大きなことだったんだ」
静かに言いながら、彼は少しだけうつむく。
「俺……あのとき、自分が無力だったことが悔しくて仕方なかった。
でも、お前が先生を救ったことを、誰よりも誇らしいと思ってる」
その言葉に、思わず胸が詰まった。
不思議だった。
こんなふうに真っ直ぐに、自分の行動を受け取ってもらえたことが。
そして――その心に、自分の存在がちゃんと残ってるって知れたことが。
『……ありがと、轟くん』
そう言うと、彼は小さく笑った。
「それだけ、伝えたかったんだ」
その笑顔に、私はやっと肩の力を抜いた。
静かな朝。
まだ世界は完全には戻っていないけど――
心の奥に、ひとつあたたかい光が灯った気がした。