第24章 想いを、繋ぐために
「──そろそろ行くか。まだ、やることは山ほどあるからな」
ホークスがそう呟いて、羽をひとふりする。
完全には戻っていない赤い羽根が、静かに空気をかき分けていく。
彼はそのまま、ゆっくりと上昇していった。
躊躇も未練もなく、ただ真っ直ぐ──。
彼女は少しのあいだその背を見送り、
それから報道陣の方へと振り返る。
一瞬だけ、どこか照れたように微笑み──
『……お騒がせしました』と、小さく、でもはっきりと告げる。
その仕草は、まるで誰かに「またね」と手を振るような、そんな優しさを孕んでいた。
──そして、彼女の背に宿る“白い翼”が、ふわりと広がる。
光を抱いたその羽根は、まるで空そのものに抱かれているようで、
柔らかな風を残しながら、彼女の身体を宙へと導いていった。
ひとり、ふたり──
それぞれの傷を抱えながら、それでも隣に並ぶように、空をゆくふたりの背中。
その姿を、誰もが無言のまま見上げていた。
……そして──
ヘリの中、繋がったままのカメラに向けて、ひとりの記者が静かに口を開く。
「今日の出来事で、ヒーローという存在に、私たちは確かに疑問を抱きました」
「正義とは何か。誰を信じるべきなのか。
その問いに、明確な答えはありません」
「けれど──ひとりの少女が語った言葉は、私たちの心に問いかけてきました」
「“人が人を想うこと”に、ヒーローやヴィランの垣根はないのだと」
「今の時代に必要なのは、“信じることの難しさ”を知ったうえで、それでも前を向こうとする力なのかもしれません」
「……空を飛ぶその背中に、私たちは何を感じるのでしょうか」
カメラが、夕空へとパンする。
白と赤、ふたつの色が──
まるで空そのものに溶けていくように、並んで飛び去っていく。
風が静かに流れた。
空はまだ、きっと変われる。
それを信じたくなるような──そんな午後だった。