第24章 想いを、繋ぐために
……そして、彼はマイクを受け取る。
赤い羽根がひとつ、空に流れる風に乗って舞った。
ふたりの足元には何もない。ビルの屋上でも、足場でもなく、ただ空。
それでもホークスはまるでそこが“自分の地面”であるかのように、落ち着いた足取りで宙に立ち、視線をまっすぐに向けた。
「……まずは、少しだけ話させてください」
声は穏やかだった。
けれど、その響きは、風に乗って画面越しにも伝わる。
報道陣、そして地上にいる多くの人たちが、その言葉を待っていた。
「今回の件で……ヒーローに対して、不信感を持った方もいると思います」
「その気持ちは、もっともです。……だからこそ、それについては、また日をあらためて、きちんとお話しさせてください」
ひとつ、深く息を吐く。
空気がわずかに揺れた。
それでも、ホークスの声は揺れない。
「……今日はまず、ここだけ、話させてもらえたら」
彼は、隣に立つ少女に視線を向ける。
彼女はまだ頬を赤らめたまま、でも真っすぐ彼を見ていた。
その瞳を見つめながら──彼は、もう一歩だけ踏み出す。
そして、笑う。
「……この子は、俺にとって──」
「とても、大事な存在です」
空が静かになった気がした。
風の音も、ヘリのプロペラも、報道陣の小声さえも──すべてが一瞬、止まったように。
「ヒーローとか、仕事とか、立場とか……そういうのを全部取り払って」
「俺が“俺”として守りたいと思える、そんな人間です」
少女が、また少し目を見開く。
だけど、彼女の頬に宿った微かな笑みが、そのすべてに答えていた。
──これは、ヒーローとしての言葉ではない。
翼を持つ男が、ひとりの青年として語った、心からの想いだった。
画面越しに見ていた人々のなかには──
驚く者も、戸惑う者も、微笑む者もいた。
けれど、誰も“否定”はしなかった。
彼らのあいだに流れている“想い”は、あまりに真っ直ぐで、
ただ見ているだけで、胸が熱くなるものだったから。
空の上で交わされたその告白は、
いつまでも風に乗って、どこまでも──届いていくようだった。