第6章 また明日
朝の空気は、どこか肌寒くて。
私はまだ毛布に包まったまま、ソファの上で丸くなっていた。
テレビからは、昨日の“USJ事件”の速報が、繰り返すように流れている。
雄英高校が、襲撃されたこと。
ヒーロー科の生徒たちが、戦いに巻き込まれたこと。
そして、正体不明のヴィランたちの存在――
『……ほんとに、昨日のことなんだよね……』
ぼんやり画面を見つめながら、ぽつりと呟いた。
他人事みたいで、でも指先に残る傷が、その全部が現実だったことを教えてくる。
まだ、胸の奥が落ち着かない。
あの空気も、あの痛みも、私の中でまだ続いている。
――ピンポーン。
小さく鳴ったチャイムに、思わず肩がびくりと動いた。
『……こんな時間に?』
寝ぼけたまま玄関に向かい、インターホンを覗くと、画面の向こうに立っていたのは――
『……轟くん!?』
反射的にドアを開けると、黒いパーカーにジーンズの彼が、紙袋を片手に立っていた。
少しだけ寝癖が残るその姿が、なんだか現実を引き戻してくれるようだった。
「……悪い。来ても、よかったか?」
『う、うん。もちろん……その、入って?』
ぎこちなく招き入れると、彼は玄関で靴を脱ぎながら、袋を差し出してきた。
「見舞い……ってほどでもないけど。甘いもの。少しでも、元気出ればって」
『…ありがとう。ケーキ?』
「紅茶のやつ。たぶん、好きそうだったから」
好きそう。
そんなふうに思ってくれてたんだって、胸がちくりと優しく痛んだ。
テーブルにケーキを並べて、なんとなく紅茶を淹れて。
ふたりで向かい合って座った空間は、不思議と静かだったけど――居心地は悪くなかった。
ふと、顔を上げると、轟くんがこっちを見ていた。
前よりもほんの少し、表情がやわらかくて。
「……お前の顔、見て安心した」
『え……?』
「昨日……あんなことがあって。結局、ちゃんと会えなかったから。無事かどうか、ずっと気になってた」
言いながら、彼は少しだけ視線をそらした。
その仕草が、なんだかやさしくて、胸の奥がじんと温かくなる。
『……ありがとう。来てくれて……ほんとに、うれしいよ』
その言葉に、轟くんは小さくうなずいてくれた。
それだけなのに、心がほっとした。
静かな朝に、あの場所では感じられなかったやさしい時間が、ふわりと流れていた。
