第24章 想いを、繋ぐために
少女は、そっと胸元に手を当てる。
まるで、自分の中にある“真実”と向き合うように。
『……私、星野 想花は――』
一拍、深く息を吐いた。
『夏休みの後から……公安の要請で、いくつかの潜入任務に就いていました』
『死穢八斎會、そして……頂上解放戦線』
『私の“個性”なら、表情も声も姿も――誰にでもなれる』
『だから、向いているって。そう言われて……任されました』
モニター越しに見守っていた報道陣の中で、ざわめきが走る。
“雄英生徒に公安任務”“敵地への潜入”――あまりにも衝撃的すぎた。
少女は構わず、言葉を継ぐ。
『でも……それは“選ばされた”ようなものでした』
『“大切な人を守りたいなら”って。』
『私の中に、逆らえないように……装置まで、埋め込まれました』
空気が、すっと凍る。
言葉に詰まる記者たち。カメラを持つ手が、震えた者もいた。
『それでも……守れるならって、信じていたんです』
『私が傷ついても、苦しくても――彼が無事でいられるなら、それでいいって』
『けれど……その人も、私と同じように、危険な場所にいました』
『それを知ったとき……正義って、なんなのか、わからなくなりました』
少女はほんの少しだけ視線を落とし、それでも顔を上げる。
『絶望の中で……私を支えたのは、敵のはずの――ヴィラン連合の人たちでした』
『彼らの言葉に救われたとか、信じたとか……そういうことじゃないんです』
『ただ……彼らの“傷”に、触れてしまったんです』
『誰かを憎むように育って、誰にも信じられずに生きてきて――』
『そこにあったのは、ただの、苦しみと……哀しみでした』
少女の背後で、何かを呑み込むように、記者の一人が小さく唇を噛む。
『だからと言って、彼らの行いを許すわけじゃない』
『けれど――その痛みまで、なかったことにしていいとは、思えなかったんです』
『だってそれは……たぶん、私たちと同じだったから』
カメラのレンズが静かに彼女を映す。
泣いているわけじゃない。でも、声には確かに涙があった。
その静けさは、一瞬だけ、画面の向こう側まで伝わっていた。
――そして、彼女は小さく息を吸う。
その続きは、
まだ誰も知らない。