第24章 想いを、繋ぐために
──静寂。
レンズの奥、幾千万の視線が少女の言葉を待っている。
誰もが固唾をのんで、次の一音を。
一歩前に出た少女は、細く息を吸い込んだ。
その目はまっすぐに見据え、
形の良い唇が、ゆっくりと震えるように動き始めた。
『……ヴィランとか、ヒーローとか』
『その呼び方に、もう意味はあるんでしょうか』
透明な声が、まるで光をすくうように響く。
『ヒーローを名乗っていても、誰かの心を踏みにじる人がいる』
『“ヴィラン”と呼ばれていても……
他人の痛みに、涙を流す人がいました』
『何が違うのか、私にはもうわかりません』
報道陣の背後で、誰かが小さく息を呑んだ。
別の誰かは、口元を押さえていた。
だけど少女は目を伏せることなく、ただ静かに──けれど確かに語り続ける。
『……きっと。』
『今、ヴィランと呼ばれている人たちも――』
『ヒーローとして立っている人たちも。』
『その“生き方”は、どこかで……』
『“誰が、どんな手を差し伸べたか”で、変わっていたのかもしれません』
言葉はやさしく、でも容赦なく胸を打つ。
その声は──
かつて“線”を引いたすべての人へ向けられていた。
『……私も、その一人でした』
『ほんの少し、誰かとの出会いが違っていたら』
『私は――“この個性”を、ヴィランとして使っていたかもしれない』
『もし、そうなっていたら……
きっともっと多くの人を傷つけて、悲しませていたはずです』
言い終えたあと、一瞬だけ風が通り抜ける。
少女の銀髪がやさしく揺れた。
その瞳にはもう、迷いはなかった。
ただ、まっすぐに向けられた問いが宿っていた。
『皆さんは……』
『過去に、自分の言動で。
誰かを“あちら側”へ歩ませてしまったことは、絶対に無いと……』
『そう、言い切れますか?』
沈黙。
マイクのノイズさえ止んだような、深く静かな空気が広がる。
誰も答えない。
だけどそれは──確かに、問いが届いた証だった。