第24章 想いを、繋ぐために
ヘリの上空に、ひとすじの風が巻いた。
その中心に現れた少女を、誰もすぐには“人”として認識できなかった。
あまりにも静かに、あまりにも美しく――
翼をたなびかせながら、彼女は報道ヘリへと近づいてくる。
「……あれは……」
カメラマンの声が震えた。
透き通るような銀の髪が、陽を受けて淡く煌めいている。
その瞳は、どこまでも澄んで、どこまでもやさしい光を宿していた。
誰かが小さく息を呑む。
まるで、天使だ。
炎に焼かれ、血で濡れ、絶望に染まったこの空の中に、
たった一滴だけ、奇跡のような“静けさ”を連れてきた存在。
彼女はそっと足をかけ、ヘリの扉を優しく叩くようにして現れた。
誰も、動けなかった。
誰も、声をかけられなかった。
それほどに、彼女は――“何か”を超えていた。
その少女が、そっと頭を下げる。
『……すみません。少しだけ……マイクを、お借りしてもいいですか?』
あまりにも丁寧な声音に、記者も、カメラマンも、息を飲んだまま頷いた。
誰かがマイクを差し出し、もう一人がカメラの焦点を彼女に合わせる。
ゆっくりと。
少女は、深く息を吸った。
そして、小さく――
空を仰ぐように目を閉じる。
風が、またひとすじ。彼女の髪を揺らした。
やがてその瞳が、ゆっくりと開く。
その光が、カメラの向こうにいる“日本中”に届いた気がした。
少女は、まっすぐに、レンズを見つめる。
そして、優しく微笑みながら――
言葉を紡いだ。
『……私は、雄英高校ヒーロー科1年、星野 想花です』
静かな声が、ヘリの中に優しく響く。
報道陣は誰も動けなかった。
ただ、マイクを握る少女の姿に、視線も、息も奪われる。
淡く光る銀の髪に、まっすぐな瞳。
けれどどこか儚げで、まるで――空から舞い降りた光の化身のようだった。
そんな彼らに、少女は少しだけ笑って言った。
『……どうか、少しだけ。私の話に、耳を傾けてください』
それは命令ではなく、お願いでもない。
ただ、心の奥へまっすぐ届く、“願い”のような声だった。