第24章 想いを、繋ぐために
ALL side
破壊された街並みに、荒れ果てた空気が漂っていた。
倒れたヒーローたちのうめき声。
瓦礫に埋もれた人々を助けようと駆け回る、医療班とレスキュー隊。
必死の救助、懸命の処置。
そのすべてが、戦いの過酷さを物語っていた。
「この人、意識戻ったぞ!」「酸素マスク、すぐに!」
「ストレッチャーこっちに――脈が不安定だ!」
現場の隅々まで、張りつめた声が響き渡る中――
誰かが、ふと空を見上げた。
「……なんだ、あれ……?」
その声とほぼ同時に、風が変わった。
淡い風。
砂ぼこりを静かに鎮めるような、やわらかな気流。
それは空間そのものの温度を変えるほどに、あたたかくて、懐かしくて――
まるで、「春の訪れ」そのもののようだった。
《……空間、干渉反応確認》
ドローンが警告を発するより先に、
そこに“ふわり”と、光が舞い降りた。
緊迫した現場の中心に、白く揺れる粒子がひとしきり舞い、
その光の中から──三つの影が姿を現した。
一人は、銀髪の少女。
彼女の服は腹部を中心に赤黒く染まっていたが、
その顔には、不思議と痛みの色がなかった。
まるで、
何か大きな“祈り”が、その身に宿っているかのように。
もう一人は、白髪の幼い少女。
その小さな手を、少女はぎゅっと握りしめていた。
そして二人の後ろから、静かに現れる、三人目の影。
痩せた体。
ゆったりしたスーツの裾を揺らして、
それでも堂々と歩くその姿は――
「オールマイト……!?」「えっ、オールマイトだ……!」
現場のヒーローたちやスタッフの間に、どよめきが広がる。
かつて“平和の象徴”と呼ばれた男。
その姿はもう、誰もが知る“マッスルフォーム”ではなかったが……
それでも、彼が今ここに現れたという事実が、
誰の胸にも確かなものとして届いた。
「何で……あの子たちは……」
一部のヒーローは、息を呑んだ。
ただ者ではないと、本能が警鐘を鳴らす。
少女は、微笑んでいた。
この世界の痛みを受け入れるように。
癒すために、立っているように。
まるで、“再生”の神話が現実になったかのような、
――そんな幻想的な光景。
血を流してなお、彼女は揺るがない。
壊れかけた世界の中心で、壊理と共に、
新たな希望として降り立った。
そして今――
その“奇跡”が、静かに始まろうとしていた。
