第24章 想いを、繋ぐために
『……壊理ちゃん……』
名前を呼んだ瞬間、
胸の奥に、小さな灯が灯った気がした。
まだかすかで、頼りなくて。
触れたらすぐに消えてしまいそうな光。
けれどそれは確かにあった。
私の中で――“あの子の名前”が、
闇のなかの星みたいに、そっと輝いていた。
ふと、空を仰ぐ。
彼が飛び去った空はもう、遠い。
赤く滲んだ雲が、ちぎれた羽根のように揺れていた。
沈む夕陽に焼かれて、
世界は、痛みの色をしていた。
私は、そっと胸元に手を添える。
指先が触れたのは、
あの日彼がくれた、未来の約束。
薬指に光る、同じ石の指輪。
(……きっと、彼も知ってる)
私はここで立ち止まるような人間じゃないこと。
ただ護られるために隣にいたいわけじゃないこと。
(……私と、壊理ちゃんがいれば……)
ただ、それだけで。
胸が熱くなった。
ふたりでなら。
ふたりでなら――
消えかけた誰かの希望を、もう一度、抱きしめられるかもしれない。
誰かの未来を、
壊される前のその笑顔を、
“戻す”ことができるかもしれない。
信じたい。
あの子の力を。
あの子の、選ぼうとしたその一歩を。
そして――
私の“願い”を。
私は、ゆっくりと瞳を閉じた。
静寂の中で、耳をすませば、
空間の端が、かすかにざわめく。
誰かの息づかいのように、
風でもない、音でもない“何か”が、確かに動いていた。
(……壊理ちゃんのところへ、行きたい)
ただ、それだけを、心の底から願った。
瞬間――
空気が、ふるえた。
世界が、呼吸したように揺らいで。
ざらついた冷たい空気のなか、
ひとすじの、ぬるい光が差し込む。
それはどこか遠くで咲いた、花の香りのようで。
懐かしいぬくもりが、時間を超えて戻ってきたようで。
“想い”が走り出す。
まだ知らない道を、まだ見ぬ誰かのために。
だけど確かに、誰かの願いと、誰かの祈りを背負って。
私は感じた。
私の中の“何か”が、今――応えようとしている。
(……行こう)
胸に手をあて、まっすぐ目を開いた。
たったひとつの想いが、
いま、世界を動かし始めた。