第24章 想いを、繋ぐために
想花 side
私は、風を巻き上げて飛び立つ彼の背中を見送った。
傷ついた羽根が、夕陽に赤く揺れる。
無理に作った笑顔が、ほんの一瞬だけ私を見て、遠ざかっていった。
――本当は、行ってほしくなんて、なかった。
ただ隣にいてくれるだけでよかった。
何も背負わなくていいから、もう……あんなふうに、傷つかないでって。
でも、彼は。
『……啓悟は、ヒーローだから』
私は、そう言い聞かせるように唇を噛んだ。
誰よりも速く、誰よりも遠くを見て。
人の痛みを、自分の痛みみたいに背負って。
それでも笑って、前に進む背中。
私は、あの背中が、好きだった。
けど今は……胸が張り裂けそうだった。
苦しさが喉を塞いで、うまく息ができない。
瓦礫に染まる街。
こぼれる悲鳴。
誰かの血。
誰かの涙。
崩れた世界の中で、私はただ膝をついていた。
(……何のための、“想願”なの……)
心から願っても、届かない。
誰かの幸せを望んでも、奪われてしまう。
私は、こんなに“想って”いるのに、
それなのに、私は今――
なにも、できない。
自分の無力さに、胸が潰れそうだった。
そのとき――
記憶の端に、ひとつの光景が浮かぶ。
風の向こうで、ひとりの影が跳んだ。
脳無の爪が掠める寸前、すり抜けるように動いたその姿。
(……そういえば……さっき…)
確かに――あの瞬間、透過の“個性”を使っていた。
けれど。
(……ミリオ先輩は……治崎の、個性消失弾で……)
それは、失ったはずの力。
戻るはずのなかった希望。
目を見開く。
胸が、熱くなる。
(まさか……)
小さな手。
小さな命。
でも、確かに私たちの願いを受け取ってくれた子。
(……壊理ちゃん……!)
あの子が、きっと……あの力で。
(戻したんだ……ミリオ先輩の、未来を……!)
ぶわっと、胸の奥から何かがあふれた。
今にもこぼれそうな涙を、ぎゅっと奥に押し込んで、私は空を仰ぐ。
――絶望の中でも、希望は、生まれている。
誰かが誰かを想って、繋いだ光が、ちゃんとここにある。
そう気づけただけで、
もう少しだけ、自分を信じてみたくなった。