第24章 想いを、繋ぐために
想花side
……息が、苦しい。
目を開けるだけで、頭が割れそうだった。
何かがぶつかったような衝撃のあと、私はすべてを手放したはずだったのに。
「……やっと目覚めたか」
耳元に落ちてきたのは、どこか乾いた声。
温度のある腕が、私の体を抱いている。
(……コンプレス……)
熱のこもった腕の中で、わたしの腹はひどく痛んでいた。
顔をしかめると、彼は静かに目線を落とし、まだ止血を続けながらこう言った。
「暴れるなよ。せっかくこうして生きてんだ」
「目、覚ましたんか!」
横からスピナーの声も飛んでくる。
気取った冗談もなく、ただ素直に――安堵のにじんだ声だった。
でも、頭はまだはっきりしなかった。
焦点が合わないまま、私は視線をさまよわせる。
私が最後に見た姿――あの時、目の前にいたのは。
(……トゥワイス……)
思考より先に、体が動いた。
腹の痛みに歯を食いしばり、腕をついて無理やり起き上がる。
「……おい、待て!」
コンプレスの腕が私の肩を引き留めようとした。
でも、私はその手を振りほどいていた。
目を凝らす。すぐ先に、誰かが倒れていた。
あの黒と白のツートンカラー。無数の分身を作って笑っていた、あの人の背中。
「もう……無理だ」
コンプレスが後ろから言った。
「動いちゃいねぇよ。あいつは……死んでる」
スピナーもまた、辛そうに目を逸らしていた。
――違う。
私は、そっと彼の胸元に手を伸ばす。
指先がふるえる。冷たいようで、でも……
(……動いてる……)
小さな、小さな心臓の鼓動が、私の掌に触れた。
確かに、そこにあった。
息が、漏れた。
こみあげる涙が頬を伝って落ちる。
良かった。
ちゃんと、届いてたんだ。
私の“願い”は、ちゃんと彼を……。
『……生きてる…』
かすれた声でそう呟いた瞬間、
「……“過去は消えない”」
世界の音が、切り替わった。
遠く、放送のような声がスピーカーから響く。
燃えるような怒りと、哀しみと、呪いをまとった声。
(荼毘……)
彼が語っている。
自分の過去を、すべて暴くように。
誰にも届かなかった“自分”を、声にして叫んでいる。
私はその声を、目を閉じて、ただ――聞いた。
――でも。
私の掌の下には、まだ命が残っている。
変えられる未来が、確かに、ここにある。
