第24章 想いを、繋ぐために
焼け焦げたジャケットの裾を引きずるようにして、
俺は、ゆっくりとテントの外へ出た。
夜の山風が、まだ微かに焦げ臭い。
遠くで、誰かの怒声。ヒーローの無線。瓦礫が崩れる音。
全部、遠くで響いてるのに──
足元だけが、妙に静かだった。
手の中には、あいつからの結晶。
歪だけど、ちゃんと光ってる。
どれだけ時間が経っても、変わらない“想い”が入ってる。
「……ホント、どこまでも人のことばっかだな」
ぼそっと呟いて、歯で挟んだ。
パリッと、乾いた音がした瞬間──
全身の痛みが、スゥっと引いていく。
灼かれてヒリついていた皮膚。
動かすたびにギシギシと悲鳴を上げてた背中。
一瞬だけ、何もかもが“風”に溶けていくような感覚になった。
「……!」
背後に、柔らかな重みが生まれる。
振り返ると、
そこには──真っ赤な、小さな翼が生えていた。
完全体じゃない。
かつての俺のような、立派な羽根じゃない。
それでも。
「……これで……飛べる、か」
声がかすれて、笑い声すらうまく出せなかった。
それでも喉の奥から、
何かがこみあげてくる。
(おまえ、ほんと……)
泣かせにくるタイミングが絶妙すぎるんよ。
焼かれて、折られて、削られて。
いまの俺なんか、ヒーローの名を騙るただの人間だってのに。
それでも、信じて、願って、
こんな力、残してってくれるとか──
「惚れた女が……すげえヤツすぎんだろ、マジで……」
一瞬、空を見上げる。
黒く煙った夜空の向こう、
──あいつがいる蛇空市が、俺を待ってる。
小さな翼に、風をはらませる。
距離は、遠い。
だけど、この願いが背中にあるなら──
「飛べるさ。ぜってえ、間に合う」
そう信じて。
俺は、まだくすぶる夜の空へ、羽ばたいた。