第24章 想いを、繋ぐために
「想花を──返せ!!」
切島の叫びが、静寂を打ち破る。
その瞬間。
「──へえ」
荼毘が、前に出た。
足元に青い炎が踊る。無数の小さな蛇のように、咆哮するように、這う。
「なんだその言い草」
「……面白いな。“返せ”だってよ」
ゆっくりと視線を向けてくるその目には、明確な“怒り”が宿っていた。
「……誰のせいで、こいつがこんなになってんのか──わかってねえのか?」
「……っ、は?」
瀬呂が反応する。隣で芦戸も戸惑いを浮かべ、上鳴が思わず前に出ようとするのを八百万が制した。
「何、言ってるの……!?」
「わかんねーのかよ」
「……お前らの“正義”のせいで、こいつはずっと泣いてたんだろうが」
荼毘の吐き出す炎がじわりと地面を舐める。
だがそれ以上は近づいてこない。──牽制だ。
「潜入なんてさせられて……どこに味方がいるかもわからねえまま、血まみれになって……それでも、黙って従ってたんだろ」
その言葉に、耳郎が目を見開いた。
潜入──?
なにそれ?
そんな話、聞いてない──
「……は?」
誰かが小さく呟いた。
そんなクラスメイトの戸惑いを、
まるで楽しむように──いや、心底“哀れ”に思うように、トガが前に出る。
「ほんとに不思議ですねぇ」
柔らかな口調に、ゾクリと背中が冷える。
「想花ちゃんを“こっち”に送り込んだのは、そっち側ですよ?」
「彼女は、誰にも言えずに1人でここにいたんです。ずっと。痛くても、怖くても──ずっと」
ふふっと笑う彼女の目は、どこまでも冷たい。
「……それで今さら“返せ”?
わがままも大概にしてほしいです」
「こっちはもう、“仲間”なんです」
その言葉と同時に、スピナーが想花の前に出る。
刀を抜き、明確に“拒絶”の意志を示す。
「……手ェ出すなよ」
その背後で、想花はまだ目を覚まさない。
けれどその身体を、コンプレスはまるで陶器を扱うように、優しく大事そうに抱きしめていた。
「君たちの“正義”が、彼女をここに追いやったのなら」
「我々が──責任を持って守るさ」
──ヒーローたちは、動けなかった。
戸惑い、怒り、信じられない気持ち。
けれど、ひとつだけ確かなのは──
目の前のヴィランたちは、本気で彼女を守ろうとしているということ。