第6章 また明日
相澤side
――意識が戻った瞬間、
最初に感じたのは、痛みじゃなかった。
……温もりだった。
じわりと広がる体温が、胸のあたりにある。
鈍く重い感覚は確かにあったはずなのに、不思議と、それが気にならない。
(……あれだけの怪我だった。普通なら……)
ぼやけた視界をゆっくりと動かす。
動かないはずの右腕が、そこに在る。形を保ったまま、ただ静かに横たわっている。
その上に、ぐったりと身を預けている小さな身体があった。
淡く光を纏うような髪。
伏せられた睫毛の下にあるのは、かつて幾度となく教壇から見ていた、あの少女の顔。
「……星野……?」
思わず、声が漏れた。
掠れた、ひどく情けない声だった。
でも、それでもいいと思った。
彼女の額が、俺の胸に静かに触れている。
小さな手が、俺のシャツの胸元を、無意識に握りしめていた。
(なんで、こんな……)
記憶が、容赦なく胸を突き刺してくる。
――“癒しの力は、使うたびに本人の体力を削る”
――“重傷になればなるほど、本人への負担も大きい”
そう言っていた。
あの日、彼女の個性の本質を知らされたとき。
教師陣が揺れた。賛否が割れた。
「ヒーロー向きじゃない」「向かせてはいけない」……そんな声すらあった。
俺も……心のどこかで、彼女の未来を案じていたはずなのに。
なのに今、ここにいる彼女は――
すべてを、差し出した顔をしていた。