第24章 想いを、繋ぐために
1-Aside
火の粉が散り、空が朱に染まる。
瓦礫と煙の向こうから、ひとつの影が駆けてきた。
「……上鳴!?」
誰かが声を上げる。
サングラスの下、顔色は青白く、息も絶え絶え。
だが、彼の瞳は必死だった。
「はあ……っ、やばい……!」
「やばいって、マジで……!」
その焦燥に満ちた声に、八百万が駆け寄る。
「上鳴さん!? 一体なにが……」
けれど、彼の口からこぼれたのは、
仲間の名だった。
「──あいつ、いた……っ」
「……想花ちゃんが、いた……っ」
「敵の中に──まちがいなく、あれは……!」
言葉の意味を、すぐには飲み込めなかった。
「……は?」と切島が、素っ頓狂な声を漏らす。
「それ、どういう……」
上鳴は苦しそうに、唇を噛む。
「……信じたくないけど、あれは……確かに想花ちゃんだった」
芦戸が目を見開き、耳郎が思わず後ずさる。
八百万は沈黙したまま、拳を胸元に添えた。
「何か、変だった」
「こっち見てたのに──オレが叫んでも、反応しなかった」
「……え?」
「目が……焦点、合ってなかった」
「まるで……誰かに操られてるみたいだった」
ぐらりと、空気が傾いた気がした。
「……そんな、ウソでしょ」
耳郎の声が揺れる。
「想花が……操られてる? ありえないって……」
「でも……上鳴の言い方、冗談に聞こえない…」
芦戸がそう言うと、横で瀬呂が小さくうなずいた。
「俺らが知ってる想花なら……敵の側にいるなんて、絶対自分から選ぶわけないもんな」
「だったら、助けないと」
切島が真っすぐに前を向いて言った。
「オレらが、あいつのこと取り戻すんだ」
八百万がそっと瞼を伏せ、そして目を開く。
「そう、ですわね。 今度は私たちが──彼女を支える番ですわ」
「……そうだな」
上鳴が、皆を見回しながら、静かに呟いた。
「オレ……想花ちゃんが目の前にいたのに、何もできなかった。
でも、今度は──絶対、見逃さねぇ」
どこにいたって、何を背負っていたって、関係ない。
あの人は、ずっとみんなのヒーローだった。
だから──
「行こう」
「想花を、迎えに」
──地響きが近づく。
マキアの巨体が迫る先、その先に彼女がいると知っている。
逃がさない。
もう、独りにしない。