第24章 想いを、繋ぐために
ヴィラン連合side
地響きが、すべてを塗り潰した。
ギガントマキアの巨躯が森を踏み抜き、瓦礫を飲み込みながら進む。
「……来たな」
スピナーが呻くように呟いた。
血まみれの戦場のなか、コンプレスが帽子を深くかぶり直す。
「ここまでだ。トガちゃん、こっちだ」
トガヒミコもまた、肩を押さえながらよろめいている。
けれど、誰もが悟っていた。
──マキアが動いた。
それはすなわち、「撤退」の合図。
死柄木の指示が届いた証だ。
「……ちっ、面倒くせぇな」
荼毘がどこか不機嫌に肩を振り払う。
焦げた皮膚の端から、引きずるように誰かの腕を持っていた。
「……スケプティック。こいつも、連れてく」
スピナーがチラと眉を動かすが、何も言わなかった。
それよりも優先すべきは──生き残ること。
ギガントマキアが連合の面々を巨大な掌で抱え込み、
その背へと振り返った、そのとき。
──ふいに、彼の動きが止まった。
「……あ?」
コンプレスが思わず声を漏らす。
巨体が、瓦礫の奥へとゆっくりと手を伸ばしていく。
瓦礫の山に、まるで何かを見つけたかのように。
そして、掌の中にそっと拾い上げられたものがあった。
「……まさか」
トガが息をのむ。
その場にいた誰もが、無言になる。
──そこにいたのは、ふたりだった。
瓦礫に埋もれるように倒れた、少女。
そのすぐ隣で、胸元に血を広げ、まるで動かぬような姿勢のトゥワイス。
どちらも、まるで息をしていない。
崩れた身体、赤黒く染まった服。
表情すら見えないほどに、沈黙していた。
「……ウソ、でしょ」
トガの声が震えた。
「仁くん……ウソだって、言ってよ……っ」
だが、トゥワイスは動かなかった。
その隣の少女もまた、何も言わなかった。
ほんの僅かに、マキアの掌に包まれたその身体が揺れる。
まるで、ただの「遺体」のように。
「……ッ、ふざけやがって」
荼毘の目が燃え上がる。
この戦いのなかで、何が失われたのか。
どれだけの想いが踏みにじられたのか。
「見てろよ、ヒーローども」
「誰一人、許さねぇ」
ギガントマキアは、ふたりを他の連合の仲間たちと共に抱え、
蛇空市の彼の主のもとへと──闇を連れて進んでいく。
──血と涙と、願いの果てに。
ふたりの“生”は、まだ光の中にあったことを、
このとき誰も知らなかった。
