第24章 想いを、繋ぐために
痛い──それは、もう通り越していた。
意識の奥が揺れるたび、視界が霞む。
でも、止まらなかった。
この奥に、彼がいる。
……だから、私は行かなくちゃいけない。
──ガラッ……ゴトッ……
崩れた鉄骨の隙間を、這うようにして進む。
手のひらは擦り切れ、足もまともに立てやしない。
腹部の裂けた傷口からは、止まることなく血が流れていた。
温かさが、命の重みを知らしめるように服を染めていく。
でも、その痛みさえ──私の歩みを止められなかった。
──そして。
『……いた…』
視界の奥。
深紅に染まった瓦礫の中心。
そこに、彼はいた。
――トゥワイスの身体。
幾数もの傷跡が、皮膚の上を交差していた。
あたりには、もう乾きかけた血が広がっている。
彼は、もう……。
『──ッ』
喉の奥が、ひとつ震えた。
私はその場に膝をつく。
崩れるようにして、彼の傍らに座り込んだ。
──啓悟のことが、よぎった。
高い空に浮かぶ赤い羽根。
いつも仲間を想って、叫ぶように走ったあの人を。
『こんなふうに……彼の手を汚したくなかった……』
啓悟を……人殺しにするためじゃなかった。
そして。
裏切られたそのまま、トゥワイスを終わらせるなんて──そんなの、許されるはずがなかった。
私はそっと、血の滲む手を、彼の胸に当てる。
目を閉じる。
祈るように、願うように。
『──貴方は……死んではいけない人』
あまりに不器用で、でも誰よりも優しくて。
みんなの笑顔を信じて、信じて、壊れてしまった人。
『だから……生きて』
でも。
でもね。
『“普通の人”として、これからを生きて』
『もう、個性なんていらない。戦わなくていい……』
『誰のためにも、自分を裂かなくていい』
あの人は、“貴方の個性”を恐れた。
未来に、誰かを殺してしまう力になるから。
だったら私は。
この願いで──ふたりの未来を、壊さない選択をする。
ふたりを、どちらも「守る」ために。
『……お願い、……"仁さん"』
私の個性が、トゥワイスの胸元を、やさしく光で包んでいく。
命の息吹が、ふたたび心の奥へと届くように――