第24章 想いを、繋ぐために
「……ッざけんなよ……」
背後から、聞き慣れた声が荒れた。
ヴォイドだった。
怒気に満ちた足音が、壊れた床板を踏み抜くように近づいてくる。
「おまえ……俺を、なめてんのか……?」
その声にはもう余裕も皮肉もなかった。
あるのはただ、思い通りにいかなくなった“モノ”に対する、支配者の怒り。
振り返らなくても分かる。
彼は、今まさに殺すつもりで、私に向かってきている。
でも、私は、怯まなかった。
ふらつく身体を支えながら、
私は血で濡れた右手を、そっと彼に向ける。
『……静かにしてて』
その一言に、祈りにも似た感情を込める。
私の想いが空気を揺らす。
ほんの微細な光が、彼の瞳の奥を撫でていく。
──数歩手前で、ヴォイドの足が止まった。
彼の膝が崩れ、そのまま意識を断ち切られたように、前のめりに倒れる。
音もなく。
まるで──“眠るように”。
私は小さく息を吐き、顔を上げる。
「……いまの……想花ちゃんの……個性……?」
トガの震える声が届いた。
コンプレスも目を見開いたまま動けずにいる。
でも私の目は、もうその先を見ていた。
ふらつきながら、一歩、また一歩と、
崩れかけた廊下の奥へ足を運ぶ。
──そのとき。
「……っ、待てよ!」
低く、しかしどこか焦った声で、コンプレスが私の腕を掴んだ。
「おまえ……その怪我じゃ、もう動くことも──」
その手に、熱があった。
心配からくるそれに、私は少しだけ目を細める。
でも。
『――大丈夫、だよ。 圧紘さん』
『──トゥワイスのことは、私に任せて』
その言葉は、私のすべてだった。
これ以上を説明することも、言い訳することもできない。
コンプレスの手が、わずかに力を緩めた。
私はそっとその手をすり抜け、ふたりに背を向ける。
腹部の痛みは、歩くたびに焼けた鉄のように響く。
身体中から血が落ちていく音さえ、今は遠い。
それでも構わない。
彼を……“本物の彼”を、助けなきゃいけない。
どんなに遅くなっても、間に合わなくても……
“私がこの手で、彼を迎えにいく”
それだけが、今の私を歩かせる。