第24章 想いを、繋ぐために
ヴォイドside
──熱。
灼けるような熱気が地を満たす。
爆風。火煙。砕けた瓦礫。怒号、悲鳴。
そのすべてを縫うように、異質な沈黙がひとつだけ流れていた。
黒衣のヴィラン・ヴォイド。
その腕に抱えられた少女の存在が、周囲をざわつかせる。
星野想花。
“ウィルフォース”と呼ばれた、かつてのヒーロー。
けれど今の彼女には、かつての面影はない。
表情も、声も、意思も──すべてを奪われた人形のように、ただ腕の中で揺れている。
……そのはずだった。
「……また、だ」
ヴォイドの目が細められる。
彼女の身体が、かすかに震えていた。
それは恐怖や抵抗ではない。
もっと根深く、澱のように滲む“感情”の揺れ。
──呼び声。
戦場で誰かが彼女の名を呼んだ。
それだけで、体温が変わる。
心拍が乱れる。
個性が、鼓動のようにざわつきはじめる。
「……記憶に、触れたか」
問いかけには応じない。
けれど彼女の睫毛が、かすかに震えた。
それだけで充分だった。
この反応こそが、何よりも“答え”を示していた。
「……おまえに、思考は要らない」
冷たい声とともに、腕に力がこもる。
彼女の小さな身体が、再び密着するように固定される。
そのとき、ふいに風が揺れた。
空気が、ほんのわずかに捩れる。
彼女の周囲だけ、空間が“応じる”。
──想願。
宿されたまま封じられた個性が、確かに“目覚めかけていた”。
(……厄介だな)
ヴォイドは目を伏せる。
彼女の“目覚め”はまだ不完全。
けれど、放っておけば再び意思を持ち始める。
「……スケプティックに連絡を」
ヴォイドは懐から通信装置を取り出し、スイッチを入れる。
彼女の“異常”を報告し、指示を仰ぐため。
その動作の最中――ふと、視線を落とす。
抱えられた少女の睫毛が、うっすらと持ち上がっていた。
ほんの一瞬。
それでも、確かに光が宿っていた。
声はない。
言葉も届かない。
けれど、“誰かの声”に、心が反応していた。
(……やめろ。思い出すな)
ヴォイドの喉奥が、わずかに鳴る。
その感情が“焦り”であると、彼自身まだ気づかぬまま──
風が再び、少女の髪を揺らした。