第24章 想いを、繋ぐために
上鳴side
爆音が途切れたわけじゃない。
ヒーローの叫びも、戦士たちの怒号も響いていた。
けれど、まるで世界が一瞬、息を潜めたような感覚に──
上鳴は思わず顔を上げた。
「……なんだ、あの空気……?」
前線にいた彼は、数歩先で戦っていた仲間たちの動きが、一瞬止まるのを見た――その視線の先。
空気が、揺れていた。
熱と冷気が入り混じるように。
──そこに、彼女がいた。
銀の髪。凛とした立ち姿。
見間違えるわけがない。
胸の奥に、焼き付くほど記憶している、クラスメイトの姿。
「想花…ちゃん…?」
その名を呟いた瞬間、脳裏に蘇る。
──最後に会ったのは、あの日。
冬の文化祭が終わって、クリスマスの日。
ヒーローインターンが始まっても、彼女は、戻ってこなかった。
ずっと、姿を見ていなかった。
でも信じてた。
戻ってくるって。
絶対に、またみんなで笑い合えるって。
けど──目の前の彼女は、
両手に、炎と風を纏っていた。
明確に、ヒーローたちを敵と見ているその構え。
仲間を“攻撃しよう”としている、あの彼女の姿に──
「なにしてんだよ……!」
上鳴の声が割れた。
それでも構わず、彼は叫ぶ。
「想花!! おい、目ぇ覚ませよ!!」
「ヒーローに手ぇ出すなんて……おまえがそんなこと、するはずないだろ!」
振り向かない。
視線も、動きもしない。
まるで“操られてる”みたいに。
動きに迷いがない。
──あまりにも静かに、“自分の意志”で戦場に立っているようだった。
「想花!!!」
何度も、叫ぶ。
喉が裂けるほど。
心が壊れそうなほど。
──少女の手が、ぴたりと止まった。
ほんの一瞬。
彼女のまぶたが、震えた。
──届いた……?
そう思った瞬間、
彼女の傍らにいた黒衣の影が、何かを囁いた。
彼女の表情が、ほんの一瞬、歪んだ。
次の瞬間、風が弾け、炎が消える。
そして、彼女は何も言わず、静かに身を翻した。
再び戦場の奥へと、黒衣と共に消えていく。
「……想花……ッ!!」
上鳴の声が、追いかける。
だが──彼女は、振り返らなかった。
ただ、ひとつ。
彼女の背にある傷跡のようなものが、風に晒され、
それが“戦う意志”ではなく、“何かに縛られている証”のように見えたのを──
上鳴は見逃さなかった。