第23章 空白の檻
無機質なモニターに、またひとつ波形が跳ねた。
ヴォイドが、それを横目で見た時だった。
スケプティックがふいに、愉快そうな口調で言った。
「さて──そろそろ、“本番”の準備に取りかかろうか」
「……もうですか?!まだ、彼女の“核”は完全に──」
「だからこそだよ、ヴォイド」
薄く笑って、スケプティックは席を立つ。
「あとひと月もすれば、“あの日”が来る。
我々が仕掛ける最終段階──その場で、彼女の仕上げを行う」
「……仕上げ…?」
「……ホークス──あの羽根の男の目の前で、“壊す”んだ」
「……彼は、仲間では」
その問いに、スケプティックの笑みがわずかに歪む。
「あいつの眼は笑っていない。
公安に飼われてた犬が、いきなりこちらにしっぽを振る?──そんなの、信用できない」
カツ、カツ、と足音を響かせ、少女の頬を撫でる。
「だから、確認だ。
奴の“正体”も、“意思”も、全部、白日の下に引きずり出してやる。
──この子の手でな」
「……何を、させるつもりで?」
問うた声は、わずかに震えていた。
スケプティックは、それを楽しげに拾い上げる。
「簡単なことさ。“彼女の心”を殺すんだ」
灰色の静寂が落ちる中、少女は静かに瞬きをしていた。
ただ命じられるまま、従順に──まるで“それしかできない”ように。
「“奴”の目前で、“彼女に”仲間を殺させる。
できれば、奴自身を殺すのが最善だが……その“途中”も、また美しいだろうね」
ヴォイドの手が、わずかに震えた。
彼は知っている。
──彼女の中に、“彼”がどれだけ強く刻まれていたか。
──その“想い”が、どれほど深く、温かいものだったか。
それを利用して、“壊させる”。
スケプティックは、うっとりとした表情を浮かべながら、囁く。
「準備は整った…」
その瞬間だった。
モニターのグラフが、一斉に大きく跳ね上がる。
警告音が鳴り、空間の隅に置かれた椅子が、ミシ、と軋んだ。
空気が揺れる。まるで、そこだけ時空が“ねじれた”ように。
「……抑制率、88.6%まで低下……?」
ヴォイドの目が見開かれる。
彼女の中で、“何か”が暴れていた。
だが──動きに、乱れはない。
スケプティックは、モニター越しにその微細な変化を見逃さず、口角を上げる。
「……やはり、“奴”を思う時が…一番心が動くか」
