第23章 空白の檻
スケプティック&ヴォイドside
意志を奪われて、どれほどの時が経ったのだろう。
“想う”ことすら、赦されないまま──彼女は、ただ命じられるままに生きている。
灰色のノイズが混じるモニターに、少女の姿が映っている。
無表情。規則正しい動き。外見に乱れはない。
それでもスケプティックは笑った。
──完璧だ、と。
静かに並ぶ複数のグラフ。
脳波、脈拍、個性活動域。
“想願”と名づけられた多機能型の異能は、現在、92.4%の制御率を示していた。
「数週間の成果ってやつだな。
君の個性も、なかなか役に立ったじゃないか──ヴォイド」
机に投げられたUSBスティックを、ヴォイドは黙って受け取る。
その指先には、以前より明らかに疲労の色が浮かんでいた。
フードの襟元は乱れ、冷え切った空気の中でも、うっすらと汗が滲んでいる。
「スケプティック様、――彼女の“心”は、強すぎる」
ポツリと漏れたその声に、スケプティックの指が止まる。
彼はあくまで分析者としての顔で、薄く笑った。
「だから、面白いんだよ。
君の“個性”で抑え込みながら、同時に個性そのものを動かす。
この矛盾に、どこまで耐えられるか。
──彼女という素材が、どこまで保つのか」
ヴォイドは、黙っていた。
否、何も返せなかった。
彼女の“内側”に触れ続けていた時間が、長すぎた。
全てを奪い、飲み込んでしまうはずだったその心が、
あまりにもまっすぐで、あたたかすぎたこと。
ただの操り人形に変えるはずだったのに。
──今も、どこかで微かに“揺れている”のを、彼は知っている。
「……」
グラフの隅で、一瞬だけ跳ね上がる波形。
それを見つめながら、スケプティックはまた静かに笑った。
「まあ、どうでもいいさ。
魂だの、感情だの、そんなものが残ってようがね──
“計画”さえ、上手く運べばいい」
ヴォイドの表情が、わずかに揺れた。