第23章 空白の檻
ホークスside
──ここ数日、“カゼヨミ”が見当たらない。
ヴィラン連合のメンバーが動いているのは、確認済みだ。
アジトの出入り、戦士たちの訓練、トゥワイスやトガ、荼毘の姿も何度か見た。
一応、背格好や雰囲気が近い子も何人かいたけど──
気配も、声も、空気も……
“あの子”の痕跡だけ、完璧に消えていた。
(まさか、捕まった……?)
けど確信はない。
連絡もできない。
“盗聴”なんてレベルじゃない。
スケプティックが、俺を常に見張っている。
一瞬の感情、視線の揺れ、言葉の温度。
どれか一つでも引っかかれば、“ヒーローとしての任務”は失敗する。
……そして、それは。
彼女の命に、直結する。
だから笑うしかない。
余裕ぶった顔を続けて、ただ、待つ。
(……なあ、本当に無事でいるか?)
その問いに応えるように──
「ようっ、ホークス〜!」
軽い声が、背中から落ちてきた。
視線を向けると、トゥワイスが手を振りながら近づいてくる。
「最近お前、ちょっと顔こわくね!? いやいやでもイケメンだからセーフ! ちくしょー!お前ばっかモテやがって!」
「いやいや、そっちこそ今日もノリノリっすね」
軽口を交わしながら、俺はわざと自然に問いかける。
「そういや……最近、“カゼヨミ”って人と一緒にいないっすよね?」
空気が凍った。
トゥワイスの手が、わずかに止まる。
指の先が、ぴくりと震えたのを見逃さなかった。
その一瞬に、確信めいた違和感が滲む。
「な、なに言ってんだ〜!? お、おれは最近ちょっと個人行動が多くてだな!? うん!そう!そっちもそうだろ!? 忙しいからな〜!」
「……まぁ、確かにそうっすね!」
「そ、そうそう! またすぐ会えるって! へへ、そん時はまた仲良くな〜! なっ!」
明るい言葉の端に、ほんの少しだけ焦りが滲む。
それでも笑ってみせるトゥワイスに、俺も笑顔で返す。
(……今のは、どう考えても不自然だろ)
(あいつ、何か──知ってる)
何があった?
どこにいる?
どうして言えない?
言葉にすれば、すぐにバレる。
スケプティックが、どこで見てるか分からない。
(クソ……時間がねえ……!)
心の奥で焦燥が膨らんでいく。
見せられるのは、作られた表情だけ。
笑って、軽く手を振りながら──
拳がわずかに震えていた。
