第23章 空白の檻
静寂に包まれた室内。ヴィラン連合の面々が、中央に立つ彼女の姿をじっと見据えていた。
「……想花……」
トゥワイスだけは声が震え、言葉に迷いが見える。
彼の視線は揺れ、動揺を隠しきれずにいた。
しかし他の者たちは、あくまで冷静だ。目の前にいるのが、かつての仲間であることは認めつつも、表情を硬く引き締めている。
「……で、これは一体どういうことだ?」
その口を開いたのは、いつもは無口な荼毘だった。彼の声には、冷たい疑念が混じっていた。
その時、スケプティックがパソコンの画面から視線を外し、ゆっくりと口を開く。
「こいつは裏切り者……公安のスパイだった。 だが、厄介な個性の持ち主でな。利用価値があると判断し、今は生かしている」
言葉は冷酷で、感情のかけらもない。
「手駒として使える限りは、放置するつもりだ」
室内に凍りつくような空気が流れる。
だが、トゥワイスの顔にはまだ、かすかな戸惑いが残っていた。
「……それでも……」
スケプティックは彼に向き直り、鋭い目を細める。
「その『それでも』の気持ちがある限り、こいつは確実に俺たちの敵になる。……甘やかすな」
連合の中で火花が散るような緊張感が走る。
静寂が深く沈み込む中、荼毘が声を発した。
「……こんな状態の奴を、果たして利用できんのか?」
その言葉には、冷ややかな疑念が滲む。
「明らかに感情しんでんだろ。 そいつの個性は“想願”だ。
感情の力が必要な個性を、今のこいつが使いこなせるとは思えねぇが」
スケプティックは淡々と画面を見据えたまま、静かに答えた。
「問題ない。個性の本質を理解している者が制御すれば、充分に戦力となる」
彼の言葉に、室内の空気が一層引き締まる。
「感情は“想願”の燃料だが、それを管理し、操る術もある。
ヴォイドが完全に彼女を掌握している限り、勝手な暴走はさせん」
スケプティックの視線が、再び想花の冷え切った瞳に向けられた。
「心配はいらん。こいつは俺たちの“武器”だ」