第23章 空白の檻
ヴィラン連合side
コンクリートの冷たさが、部屋の隅々にまで染み込んでいた。
ヴィラン連合の集う部屋。無駄に広い、沈黙ばかりが鳴り響く場所。
ソファや床、壁際など、それぞれが思い思いの場所で、なんとなく時間をやり過ごしていた。
誰も喋らず、誰も笑わず、けれど別に沈んでいるわけでもない──ただ、ぽっかりと空いた空気だけがそこにあった。
ふいに、トゥワイスがぼそりと呟いた。
「……なあ、お前ら。あれから、…想花見たか?」
その名が出た瞬間、軽く張り詰めたような空気が流れる。
「いや、俺は」
「……見てないな」
「ワタシも。最近は……ずっと、別の場所にいるみたいです」
ぽつぽつと返る言葉たち。
誰も荼毘の方は見なかった。彼だけは、ひたすらに無言のまま。
その沈黙に、トガですら何も言わなかった。
トゥワイスは少しだけ眉を下げる。
「そっかァ……あの子、元気してんのかねェ……」
寂しげな声だった。だがその一瞬の沈みも、
「……まァ!今日の定例会議で顔合わせるか!」
と、自分でかき消すように笑った。
「なァんかよォ、やっぱ一人消えちまうと、空気って変わるモンだよなァ!」
「“死んだ”みたいな言い方すんなって」
「ハハ!たしかに!やだなァ俺!ナイスツッコミ!俺ナイス!」
自分でボケて、自分で突っ込む。
けれどその賑やかさが、どこかぎこちないのは、皆、気づいていた。
──そして、定例会議の時間が来た。
会議室に移動した連合の面々は、指定された席に順番に腰を下ろす。
いつもの顔ぶれに加え、しばらく見ていなかったあの姿を、誰もが少しだけ期待していた。
静寂を切り裂くように、重たい扉が開いた。
先に姿を現したのは、スケプティックだった。
無表情のまま、無駄のない足取りで歩み、何事もなかったように端の席へと座る。
そのすぐあとを、黒ずくめの男が続いた。
彼の隣に立つ姿は、何かを守るようで、何かを見張るようでもあった。
そして、数秒の間を置いて──
足音ひとつ立てずに、彼女は現れた。
長い銀の髪。透き通るような碧の眼。
ゆっくりと、まるで“誰かに操られる”かのような動きで、彼女は中央へと歩いてくる。
その姿は、確かに*"想花"だった。
けれど、そこにかつての彼女の“何か”は、存在していなかった。