第6章 また明日
空を裂くように風が吹き抜ける。
蒼い翼を広げ、私は傷だらけの相澤先生を胸に抱えたまま、夜空のようにくすんだUSJの空間を飛んでいた。
胸には、傷だらけの相澤先生の体をしっかりと抱いて。
『……もう少し……もう少しだけ……』
痛む腕をぎゅっと強く抱きしめながら、くすんだ空をまっすぐに駆け抜けた。
焼け焦げた木々。砕けた地面。
まるで誰かがこの世界を壊したみたいな景色を、私は越えていく。
やがて――見えてきた。
崩れかけたゲートのすぐそば。
息を荒くするみんなの姿があった。
お茶子ちゃん、三奈ちゃん、瀬呂くん、佐藤くん、そして……13号先生。
それぞれの服は破れ、顔には煤がついていて、目には疲労と恐怖と、微かな希望が滲んでいた。
そして、その全員の視線が、空のこちらに向けられる。
――蒼く揺れる翼。風をまとって舞い降りる私。
そして、腕の中にいる、血まみれの先生。
誰もが言葉を失っていた。
無理もない。
私の“個性”は、“身体能力強化”だとしか知られていない。
飛ぶことも、風を操ることも――誰にも、言っていなかった。
でも、今は……
『……ごめん、今は説明してる時間、ないの』
そう言って、私は静かに地に降り立った。
膝をついて、先生の身体をそっと横たえる。
その体は、包帯のように無数の傷に覆われていた。
右腕は、痛々しいほど不自然に曲がったまま。
『……先生……』
胸の奥が、ぎゅっと苦しくなる。
崩れた瓦礫の中で、微かに笑っていた両親の顔が、ふと重なって見えた。
気づけば、私は震える指先で、先生の頬に触れていた。
冷たくなった肌。
その温度に、何もできなかった自分が責められている気がした。
『……ごめんなさい……もっと早く、駆けつけてたら……』
涙が落ちそうになるのを堪えながら、私はそっと顔を近づけた。
唇が先生の額に触れた、ほんの一瞬――
私の身体の中に残っていた、わずかな力がすうっと流れていくのがわかった。
温もりのような、祈りのような、
それはきっと、何かを繋ごうとする力。
それだけでよかった。
それだけで――