第22章 繋がる鎖、壊れる仮面
言葉を聞いた荼毘が、ふっと鼻を鳴らした。
「……ま、そりゃそうだな」
肩を落としたように見えるのは、ほんの一瞬だけ。
次の瞬間にはもう、あの異質な静けさを纏って、私を見ていた。
その眼差しは、情でも怒りでもなかった。
ただ、壊す者の眼。
「……だったら、もういいや」
ぽつりと、独り言のように落とされたその声。
「これから、お前は──俺の隣にいろ」
その言葉の意味が、ゆっくりと、でも確実に、全身に染み込んでいく。
“ここに残る”ってことは──
カゼヨミとして、敵の中に身を置くこと。
それはつまり、“雄英”を、“みんな”を、敵に回すということ。
勝己も、焦凍も、緑谷くんも。
切島くんも、三奈ちゃんも、お茶子ちゃんも──
『……嫌だ』
小さく、誰にも聞こえないほどの声が、唇から漏れた。
でも、逃げれば彼を殺される。
──ホークス……啓悟が、死ぬ。
どっちを選んでも、何かを失う。
“それでも、お前は俺を選ぶってことだよな?”
聞こえなかったはずの言葉が、脳内でこだまする。
私は何のためにここにいる?
誰を守るためにこの場所を選んだ?
何を信じて、ここまできた?
答えなんて、わかってる。
わかってるからこそ──その重さに、膝が折れそうだった。
でも──それだけじゃなかった。
気づいてしまったのだ。
“今までは、いつでも逃げられると思ってた”ことに。
誰にも見つからず、誰にも気づかれず、ただ必要なだけの“顔”をして、いずれタイミングを見て抜け出せばいいと……どこかで、そう考えていた。
それが最善で、唯一の道だと──自分に言い聞かせていた。
でも。
それすらも、もう──できない。
私はもう、荼毘に“捕まった”のだ。
心を、名前を、そして選択を──
握られてしまった。
この場所に残ることが、啓悟を守る唯一の道。
でも、残れば──
私は“雄英の敵”になる。
クラスメイトと、戦う日が来る。
あの教室で笑い合った日々が。
誰かの背中を、支え合った記憶が。
全部、“戦場”に変わる。
『……っ、……』
喉の奥から、痛みのような呼吸が漏れる。
それでも、泣かなかった。
誰にも涙は見せなかった。
彼を守るって決めたのは、私だ。
ここに立つって選んだのも、私だ。
けれど、それでも──
この場所は、あまりにも、冷たかった。
