第22章 繋がる鎖、壊れる仮面
「──ホークス!?!?!?」
混乱と驚きが混ざった声が、まるで壁でも砕くように空気を裂いた。
振り返らなくても分かる。
それは、トゥワイスの声だった。
「待て待て、ちょっと待てよ……! え、え、付き合ってんのか!? あいつと!?」
『……っ』
返せなかった。
喉の奥で、名前がつっかえた。
否定も肯定もできないまま、ただ唇を噛む。
「でも……でもアイツは仲間だろ!?」
トゥワイスの声が震える。
「それに……想花も……!カゼヨミも、俺たちの仲間だって、お前も言ってただろ……? それなのに……なんで……」
叫ぶような、泣くような。
誰より人に裏切られてきた男の、必死の訴え。
一瞬、荼毘が視線を逸らす。
その横顔には、答えようのない迷いが浮かんでいた。
……けれど。
「──じゃあ、あいつは知ってんのかよ」
声色が落ちる。
焰の奥に潜む闇が、低く低く、這い寄るように。
「ホークスは、“お前がここにいる”ってこと……知ってるのか?」
心臓が、喉まで跳ね上がった。
あまりに唐突で、でも一番触れられたくなかった場所。
思考が、過去と現在を往復する。
あの夜、指先が触れ合った瞬間。
静かに囁かれた、たったひとつの願い。
──「お前を信じてる」
──「何があっても、お前を守る」
あの目の奥にあったものを、私は忘れない。
言葉よりもずっと深く、心に刻まれているもの。
だからこそ、言えない。
――彼の立場を危うくする発言なんて出来るわけない。
『……知らない』
唇が、ようやく動いた。
『彼は、私がここにいるなんて……知らない。
もし知ってたら……私を、こんなとこに置いておくはずがない』
かすかに揺れた声。
けれどそれは、誰より真っ直ぐだった。
『……絶対に、私を逃がしてる。あの人はそういう人だから』
──だから、私は今ここにいる。
逃げずに立ってる。
言葉を選んだわけじゃない。
ただ真実のうち、彼を守れる部分だけを差し出した。
それが今の、私の“選択”で。
私の、正しさだった。