第22章 繋がる鎖、壊れる仮面
『……ありがとう、圧紘さん』
私は、そっと彼の背後から一歩前に出た。
その背を追い越し、真正面から皆と向き合う。
視線が交差する。
スピナーの不安げな瞳。トゥワイスの混乱。トガの警戒。そして──
荼毘は、炎の奥でじっとこちらを睨んでいた。
『騙してた。……それは、本当』
言葉を紡ぐたびに、胸の奥がぎり、と軋む。
でも私は、逃げない。今度こそ。
『最初は、公安に言われて……“カゼヨミ”として来た。
でも、……でも、皆と過ごして、本当にわかったの』
『私は、あなたたちとは戦いたくない。
ヒーローでも、ヴィランでも、誰かの痛みの上に立ちたくないの。……ずっと、そうだった』
言い終えると同時、空気が変わった。
──ドン。
「甘えたこと言ってんじゃねぇよ」
空間を裂くように、炎が駆けた。
荼毘の掌から放たれた蒼い火が、一直線に私を撃ち抜こうとする。
『っ──』
身体が勝手に跳ねた。横へ、後ろへ、転がるようにして。
かすめた熱が、頬を焦がす。
音もなく、壁が灼け落ちた。
「“本気”で生きるってのはなァ、もっと汚ぇモンだろうが」
荼毘の声が、静かに刺さる。
「正義も悪も捨てて、理想もなにもかも手放して、それでも欲しいもんがある。
それを掴むためなら、躊躇なんかしねぇ。……そうだろ、想花?」
──わかってる。
荼毘の言葉が正しいとも、間違ってるとも言えない。
でも、私は──
今は逃げる――それしかなかった。
これ以上、ここで争えば、もっと傷つく。私も、皆も。
私は背を向けて、跳びかかるようにして走った。
出口に向かって、振り返らず。
けれど──
「逃げるなら、……あいつ殺るぞ」
その一言で、私の脚は止まった。
『……っ……』
「お前の男だろ。……ホークスは」
荼毘の声には、熱も嘲りもなかった。ただ事実のように。
私は、もう、逃げられなかった。