第22章 繋がる鎖、壊れる仮面
……静かだった。
誰もが、私を見ていた。
泣いて、笑われたわけでも、責められたわけでもなくて。
ただ、受け止めようとしてくれていた──そんな空気が、優しくて、苦しくて。
ふっと、視線の端で、彼が動いた。
「……ったく、隠す気あんのかよ、お前」
低くて乾いた声だった。
誰よりも冷めていて、誰よりも熱を帯びてる声。
その一言で、空気が凍りつく。
「そんなんじゃ、バレても仕方ねぇだろ。……なぁ、想花?」
──え?
時間が、止まった気がした。
『……っ、……誰ですか、それ……』
思わず顔を上げる。
声はかすれていて、息が詰まりそうだった。
“その名前”が、ここで聞こえるなんて、思っていなかった。
「あ……? え? 今、想花って──」
「ちょ、ちょっと待って!? それカゼヨミちゃんの名前じゃ──」
トガとトゥワイスが、揃ったように声を上げる。
トガはまじまじと私を見つめて、
トゥワイスは両手をわたわたと振りながら、混乱している。
そのとき、隣で誰かがゆっくりと頭を抱えた。
「……ああ、やっちまったか」
コンプレスだった。
彼は仮面を押さえながら、小さくため息をつく。
「まぁ……時間の問題だった、とは思ってたけどね」
仮面越しに見えない顔で、ぽつりと漏らすように。
私は、何も言えなかった。
“その名前”が耳に残って、脳がうまく働いてくれない。
「……なにとぼけてんだよ。泣いてるときの顔、あの時と同じだったぜ」
荼毘がゆっくりと口角を上げる。
「そりゃ〜……俺が気づかねぇわけないだろ。 ほんと、バカだな」
その言葉は、責めるようで、懐かしいようで。
喉の奥に何かが詰まって、言葉が出なかった。
『……っ……わたし、は……』
必死に否定したくて、でも言葉にならなくて。
この場にいる“カゼヨミ”としての私と“想花”としての私が、ぐらぐらと揺れて、混ざっていく。
“もう、終わりだ”
そんな予感だけが、心を支配していた。