第22章 繋がる鎖、壊れる仮面
崩れたジェンガのピースを、ひとつひとつ拾い上げながら。
指先には、さっきまで背中に寄り添っていたトガのぬくもりが、まだ微かに残っていた。
誰も言葉を発さず、ただそれぞれの手元に意識を落としていたそのとき――
「……じゃあ、次は俺か」
ぽつりと落とされた声に、自然と全員の視線が向いた。
それは、いつも明るく軽口を叩き、空気を和ませていた彼──トゥワイス。
けれど、そのときの彼の顔には、いつものおどけた調子とは違う、薄い陰りが差していた。
「俺はさぁ──」
彼は、笑っていた。
でもその笑みの奥にあったのは、誰にも踏み込ませたことのない深い孤独だった。
「昔は、普通の会社員だったんだ。
真面目に働いて、誰にも迷惑かけずに、地味〜に生きてた。
でもさ、ある日突然、全部がイヤになっちまって──
それで、個性で“自分のコピー”を作ったんだ」
ふざけてるみたいな口調。
だけど、手の指は微かに震えていた。
「一人じゃ寂しかったし、二人いれば楽できるし、
なんなら仕事も全部任せちまえばいーじゃん!って思ってさ!
で──どっちが本物か、わかんなくなっちまった」
ジェンガのピースを弄んでいた彼の手が、わずかに震えていた。
それは誰もが気づかぬふりをした、小さなSOSだった。
「俺を作ったアイツは、俺が本物じゃないって言い張って……
俺は俺で、絶対に自分が本物だって信じてた。
そしたら──殴り合いが始まって、気づいたら……」
彼は、笑った。
でもその笑顔は、張りつけた仮面のように、痛々しくて。
「全部終わってた。
誰にも助けてもらえなかった。
何が本物で、何が偽物か、わかんなくなって……
だから今も、“分裂”したら、また自分を疑っちまう。
俺は俺だけど、俺じゃないかもしれなくて──
怖ぇんだよな、また、壊れるのが」
言葉が落ちたあと、沈黙が部屋を覆った。
けれどその沈黙は、重くはなかった。
誰も否定せず、拒まず、ただ、彼の痛みをそこに受け止めていた。
……ぽん。
トガがそっと、彼の肩を叩いた。
いつものように、屈託のない笑顔で。
「仁くんは、仁くんだよ♡」
優しい声だった。
それは、どんな薬よりも効く“肯定”だった。