第22章 繋がる鎖、壊れる仮面
「……じゃ、次は〜……わたしです♡」
誰も何も言わないまま、空気がまた静かになったその隙を縫うように、
くすくすと笑いながら、トガが手を挙げた。
「わたしね、昔から“人を好きになる”のが、ちょっと変だったみたい♡」
『……変、って……』
「だってさ、“好き”って思うと……その人になりたくなっちゃうの♡
血が欲しくて欲しくて、どうしようもなくなるの。
ね? 普通じゃないでしょ♡」
まるで秘密の話をするみたいに、くすくすと笑う彼女。
でもその笑顔の奥には、何か……深くて、暗い何かが見えた。
「学校では“気味悪い”って言われて、
親には“普通になりなさい”って怒られて……」
ふわりとした声。
だけど、その声の端はほんの少し震えていた。
「それでも、私はただ、“好き”って言いたかっただけなのに。
“好き”って、誰かの全部を欲しくなることじゃないの?」
沈黙が、空間を満たした。
誰も答えられなかった。
それが“正しい”とか“おかしい”とか、そんな言葉では測れないことだと、誰もがわかっていたから。
「でもね♡ わたしはわたし。
“好き”のカタチがちょっと違うだけ。
……だから、ここにいるの」
トガはそう言って、私に小さく微笑んだ。
「カゼヨミちゃんも、わたしのこと“気味悪い”って思う?」
『……思いませんよ』
思わず、言葉が漏れた。
『“好き”の形って、ほんとに、人それぞれで……
私にはわかるなんて、簡単には言えないけど──
でも、否定なんて……絶対に、しません』
その言葉に、トガはぱぁっと花が咲くように笑った。
「んふふ♡ ありがと!やっぱりあなた大好きですっ♡♡」
勢いよく抱きついてくるトガに、思わず身体がぐらつく。
だけど、彼女の体温は冷たくなくて、
どこか寂しさを含んだ、あたたかい“体温”だった。