第22章 繋がる鎖、壊れる仮面
──カチッ。
指先が、ジェンガのピースをそっと引き抜いた瞬間。
重なり合った木の山が、かすかに揺れて音を立てた。
誰もがその行方に一瞬だけ息を止めたのに、
その静寂を破ったのは、トゥワイスのいつも通りの声だった。
「なぁ、カゼヨミ。なんで異能解放軍にいたんだ?」
『……え?』
思わず抜いたピースを落としそうになる。
けれどそれを掴み直した手を見て、トガが「あっぶな〜♡」と笑った。
隣ではスピナーが口元を隠して、気まずさでも戸惑いでもない、
ただ“何気ない会話のひとつ”みたいに苦笑していた。
「いやさ、ずっと聞きそびれてたんだよな。今さらだけど!」
「でも、私も気になってました!気付いたら私たちに馴染んでますよね……もうずっと前から一緒にいたみたい♡」
どこかほころぶような空気の中、私は少しだけ黙ったまま目を伏せる。
“異能解放軍にいた理由”
──本当の理由なんて、言えない。
本当の私は"敵対する相手"だもの。
……それが、少しだけ胸を打った。
『ふふ……急にどうしたんですか、ほんとに』
「急に知りたくなっただけさ!なあ?」
「おう」
「まあ気になってたのは、ほんとだけどな」
木目のピースがまだ微かに揺れていて、それを見つめながら、
私は言った。
『……じゃあ、逆に聞いてもいいですか?』
「ん?」
『皆さんは、どうして“ここ”に?』
小さな、でも確かな問いかけ。
それは私の過去をやんわりと包み返すように、
静かに、けれど優しく響いた。
ぴたり、と皆が動きを止める。
けれど空気は張り詰めるどころか、なぜだかふっと和らいで。
「……あー、なるほどな」
「お返しかぁ。ずるいです♡」
「けど……まあ、別に隠すことでもねぇしな」
トゥワイスが小さく笑いながら、崩れかけた塔に手を伸ばす。
けれどその拍子に、最後のピースがかたんと倒れて、
積み上げていたジェンガが音を立てて散らばった。
「あーっ!!」「うわ〜っ崩れた〜!」
「トゥワイスのせいだぞ」
「いや俺は悪くねぇ!運命だ!」
わいわいとした声。
騒ぎながらも、それぞれの過去へと向き合おうとする姿。
笑い合いながら、でもその影に少しだけ滲むものがあって──
私は、散らばった木のピースをひとつ拾いながら、
その小さな破片のような“過去”に、耳を傾けようとしていた。
