第21章 君に贈る、ひとときの奇跡
パーティの熱が、ひとしきり落ち着いた頃だった。
大騒ぎしていたトゥワイスはソファで丸くなり、トガは着替えたサンタドレスの裾をいじりながら、ふわふわと眠気と戯れている。
私はそっと、その場を抜けた。
誰にも気づかれないように──
廊下。
冷たい空気が、少しだけ火照った頬に心地いい。
窓辺に寄りかかって、私は深く息を吐く。
さっきまで胸の奥に押し込んでいた“あの時間”が、薄らと滲んで溢れそうになっていた。
──優しい声も
──痛むような視線も
──何もかもを隠して笑っていたけれど、今は少しだけ、静かになりたかった。
廊下の向こうから、かすかな足音がした。
私は振り返らなかった。
けれど、その足取りにどこか芝居がかった緩さが混じっていたから、誰が来たのかはすぐにわかった。
「……いやあ、いい会だったね。君のセンスには毎度驚かされるよ」
気だるげに、けれど楽しげに。
コンプレスは横に立ち、同じように窓の外を眺める。
『……そう?』
「そうとも。帽子しかなかった部屋が、一気に“パーティ”になった。
……トガちゃんも随分ご機嫌だったじゃないか。あの子、衣装脱ぐ気満々だったよ」
『うん……止めたけどね』
ふたりの間に、小さく笑いがこぼれる。
それはどこか、仮面の奥に潜んだ本音のように、あたたかい音だった。
しばらく、言葉のない時間が流れた。
木々の揺れる音だけが、遠くの風に乗って届く。
『……今日は、ありがとう』
ふいに落とした私の言葉に、彼は片眉を上げる。
「おや、それは一体なんのことだい?」
『ふふ……なんでもないよ』
そう言って、私は顔を伏せて、そっと微笑む。
『……最高のプレゼントを、サンタさんにもらっただけ』
その一言に、彼はほんのわずか、顎に手を添えて首を傾げた。
そして冗談めかして、小さく囁く。
「……そいつは名誉だな。
でも、サンタというには少し──黒が過ぎるかな?」
『んー、でも悪くないかも。黒いサンタさん』
「ふむ……“ブラック・クリスマス”。ちょっとした舞台の題名にでも使えそうだ」
ふたりの笑い声が、夜の廊下にほんの少しだけ滲んでいく。
仮面の奥に本音を隠して。
誰にも触れさせない想いを、そっと包み込むように。
プレゼントの形は、人それぞれ。
けれど、今夜この静けさが、何よりの贈り物だった。
