第21章 君に贈る、ひとときの奇跡
想花side
郡訝山荘の廊下。
少しだけ軋む木の床を、私はゆっくりと歩いていく。
手に持った大きめの袋には、リボンのついた赤と白の布地が揺れていた。
急いで用意した“買ってきたことになっている”衣装たち。
サンタ、トナカイ──小物も揃ってる。
さっきまで触れていた人の温もりが、まだ指先に残っていた。
その痕跡をそっと握りしめ、私は部屋の前に立つ。
──中からは、どこか物足りなさそうな声が漏れていた。
「ケーキも帽子もあるのに、なんか足りねぇんだよな〜……」
「サンタ帽じゃオレの魅力は伝わらねぇってば!!」
「っつかアイツ、遅ぇな……まだかよ」
「あーあ、カゼヨミちゃん来たら盛り上がるのに〜〜♡」
──開けた。
『…遅くなりました』
賑やかな空気が一瞬、止まる。
私のサンタ衣装姿に、数人の目がぱちくりと見開かれた。
「おおおおおおっ!!!」
真っ先に駆け寄ってきたのはトゥワイスだった。
「ついに帰ってきたァ! ってか何その格好!? え、どこ行ってた!?」
「え〜〜〜♡ちょっと可愛すぎます! ねえ見て荼毘くんっ」
「見ろ言うな、目に入ってる」
トガの声に、荼毘がぼそっと返す。
『どうせならと思って……。当日なんで、ちょっと時間かかったけど……』
そう言いながら、袋の中から衣装をひとつずつ取り出し、テーブルに並べていく。
「なッ……これ全部!? え、え、すげぇ」
スピナーが呆気に取られている。
「着ていい? 着ていい!?」
トガが目をキラキラさせながらサンタドレスを取り上げ、早速脱ぎ始めようとする。
「着替えるならあっちだ!あっち行けトガ!!!」
「えぇ〜〜もぉ〜〜見ても減らないでしょ♡」
笑い声が飛び交う中、私はふっと目線を横に流す。
壁際。
じっと静かに紅茶を飲んでいたコンプレスと、ほんの数秒だけ視線が絡んだ。
──ほんの一瞬。
彼は何も言わず、ただカップを置く仕草をわずかに止めただけ。
それだけで、すべてを察してくれた。
彼は知っている。
今夜私がどこへ行っていたのか。
そして、どんな想いを抱えて帰ってきたのかも。
「……ふふ、やっぱりクリスマスは、派手なくらいが丁度いい」
コンプレスのその一言が、乾杯の合図のように部屋に響いた。
笑い声が再び膨らんでいく。
私はその真ん中へ、少しだけ息を吐いて、歩み出した。
