第21章 君に贈る、ひとときの奇跡
相澤はゆっくりと一歩、皆の前へ歩み出た。
その落ち着いた声に、誰もが自然と視線を向ける。
「……お前たちが今、感じている悔しさや無力感」
「それは、星野も同じように背負ってきたものだ」
目元にかかる髪の影の下で、彼の眼差しはひとりひとりを真っ直ぐに見つめていた。
「だけど、あいつは決して立ち止まらなかった。お前たちを信じ、“想い”を背負いながら、先へ進むことを選んだんだ」
そう言って、彼は想花から受け取った巾着袋から、ひとつの小さな“それ”を取り出す。
透き通る光に淡く輝き、どこか温もりを感じさせる、結晶のような欠片。
「……さっき、お前らがひとりずつ受け取った“結晶”」
「これは──あいつのお前らへの、変わらぬ“想い”が詰まっている」
膝をついて、ゆっくりと手のひらに載せたそれを、皆に見せる。
「これは、あいつの“個性”の一部だ」
「もし、お前たちの誰かが怪我をして動けなくなったとき──」
「この結晶を噛み砕けば、あいつがきっと助けてくれる」
クラス全員が、先ほど想花から手渡された結晶を手に取り、じっと見つめる。
「……だが、これは“保険”じゃない」
「これは“覚悟”だ。あいつの決意であり、お前たちへの信頼の証だ」
部屋にはしんとした静寂が流れる。
誰もすぐには言葉を発せず、ただ手の中の光を見つめていた。
相澤の声はいつもと変わらず低く、落ち着いていたけれど、そこには教師としての優しさと、仲間としての誇りが静かに宿っていた。
「星野は、最後まで“信じている”──お前たちが前を向き、強くなってくれることを」
彼はふっと目を細めて、そっと言った。
「……あいつがここにいなくても──あいつの“想い”は、これからもずっと、そばにあるんだ」
相澤の言葉が、静かに部屋の空気を満たす。
そして、しばらくの間、誰もがその光を見つめ続けた。
悲しみも、悔しさも、そのすべてが、これからの力へと変わるだろう。
──ここからまた、新しい歩みが始まるのだ。
その決意が、確かに、1-A全員の胸に灯った。