第21章 君に贈る、ひとときの奇跡
1-Aside
静かに閉まった玄関の扉。
もう彼女はそこにいないはずなのに──誰も、その場から動けなかった。
ひとり、またひとりと、肩が震える。
涙をこらえきれなかったのは、芦戸だった。
「……なんで、こんなときだけ、あんな顔すんの……」
こぼれた涙が、頬を伝って床に落ちる。
その言葉が引き金になったように、麗日も、目元を押さえて顔を伏せた。
「もっと……もっと、想花ちゃんの力になれてたら……!」
唇を噛みながら、拳を握る。
「どれだけ怖い思い、ずっとしてたんやろ……っ」
「俺たち、なにやってたんだよ……」
瀬呂の声は震えていた。「同じ教室で、同じ時間を過ごしてきたのに……!」
誰かの嗚咽が、静かな部屋に響く。
耐えきれず、上鳴が後ろを向いて目元を隠した。
──それでも。
そんな空気を断ち切るように、低い声が飛んだ。
「泣いてんじゃねぇよ」
爆豪だった。
赤くなった目元を隠しもしないまま、けれど睨むような鋭さで前を向いている。
「……あいつが、あんな顔して最後に言ったろ。“諦めんな”って」
俯いたままのクラスメイトたちに、彼の声が刺さる。
「オレたちが泣いてたら、意味ねぇだろ……!」
その横で、轟も静かに呟いた。
「“次に会うとき、笑って会おう”──あいつが言ったんだ」
空を見つめるような視線の先で、夜の闇が深く降りていた。
「なら、俺たちは……その言葉に、ちゃんと応えるべきだろ」
その隣で、切島も拳を握りしめていた。
その手は震えていたが、声にははっきりとした力がこもっている。
「……ビビってる暇なんて、ねぇよな」
「星野が……命かけて踏ん張ってんだ。だったら俺らが立たなきゃ、意味ねぇって……!」
誰も言葉を返せなかった。
だけど──その場にいた全員の胸に、確かに火が灯った。
それは悔しさを、痛みを、後悔を抱えたまま、それでも歩き出そうとする“意思”の火。
そしてそのとき。
静かに、けれど確かに、相澤が口を開いた──