第21章 君に贈る、ひとときの奇跡
三奈ちゃんの腕をそっとほどいて、私は一歩だけ前に出た。
少し震える膝を隠すように立って、みんなの顔をひとつずつ見つめる。
──ああ、こんなに愛おしい人たちを、私は守りたいって思ってる。
『──みんな、この先のために、今よりもっと強くなって』
『誰かを守れる強さは、きっと……苦しさや痛みの先にしか、手に入らないから』
涙を堪えて笑ってるお茶子ちゃんも、拳を握りしめた切島くんも、
静かに瞬きする緑谷くんも、全部、目に焼き付けるように。
『自分の、大切な人を守るために──』
『どうか、ちゃんと生きて……生き抜いて』
その言葉が、思ったよりも自分の胸に刺さって、少しだけ声が震えた。
だって、今この瞬間も──未来がどうなるか、誰にもわからない。
『……私はまた、ここから離れるけど』
『別の場所で、みんなと一緒に戦ってるから。見えなくても、ちゃんと隣にいるから』
『だから、誰かが辛いときは支え合って……自分のことも、どうか、諦めないで』
頬を伝いそうになった涙を、そっと指で拭って笑った。
そのとき──不意に、後ろから声がした。
「……当たり前だろ、バカが」
驚いて振り返ると、勝己が腕を組んで立っていて。
その目は、どこまでも真っ直ぐにこちらを見ていた。
そのすぐ隣、焦凍がふっと視線を落として、ゆっくりと口を開く。
「……お前が諦めない限り、俺たちも絶対に折れない」
その声は淡々としていたのに、どこかやさしくて。
胸の奥がぎゅっと締めつけられて、私は思わず、涙と一緒に微笑んだ。
『……ふふ、そうだよね。ありがとう』
一瞬だけ、沈黙が落ちた。だけど、そのあたたかな空気が私を包むようで。
私は、もう一度みんなを見渡す。
『……次に帰ってくるときは、絶対、また笑って会おう』
『そのときはまた、くだらないことで笑って、食べて、はしゃいで──みんなで騒ごうね』
心の奥から、願うように伝えた言葉だった。
そうでなきゃ、今この場所を、離れられないから。