第21章 君に贈る、ひとときの奇跡
想花side
全員に配り終えたとき、私の手にはまだ、半分以上の重みが残っていた。
この結晶は──ここだけじゃない。
これから戦いに向かう、まだ顔も知らない誰かのために。
少しでも“光”になれるように。
私は立ち上がって、相澤先生のもとへ歩く。
教室の空気はあたたかくて、笑い声も音楽も、まだそこにあったはずなのに。
なぜか、自分の足音だけが遠く響いて聞こえた。
『……先生、残り……お願いできますか』
そっと袋を差し出しながら、目を伏せる。
『B組のみんなにも、できれば……足りないかもしれないけど、他のヒーローにも、渡してあげてほしくて……』
私の手は少しだけ震えていたけれど、先生の手は変わらず、落ち着いていて。
何も聞かずに、それをしっかりと受け取ってくれた。
「……わかってる。任せておけ」
低くて静かなその声に、胸の奥がじんとあたたかくなる。
でもそのあとに続いた言葉は──
「……もう、行くのか」
その一言で、空気が、ふっと変わった。
一瞬で、空気が変わった。
笑い声が、音楽が、全部遠ざかっていくみたいに静かになって──
「え……行くって、どういうこと……?」
「うそでしょ、想花……やっと帰ってきたのに……!」
「待って、さっき帰ってきたばっかじゃん、またって……!」
声が重なって、揺れて、私の背中に降りかかる。
思わず振り返ると、みんなの顔があって──その瞳の奥にあるものが、胸に刺さった。
緑谷くんが一歩、私のそばに来た。
手をぎゅっと握られて、びっくりして顔を上げると──真っ直ぐな目がそこにあった。
「行かないで、とは……言えないけど……
でも、また戻ってくるって、ちゃんと約束してね」
『……うん』
私は頷いた。微笑んだ。
でも、涙が出そうで、すごく困った。
その隣で、切島くんが声を張る。
「お前がいると、なんか空気明るくなんだよ!またいなくなるの、寂しいってば!」
「……そうそう!ほんと、それなー!」って上鳴くんが言ってくれて、
三奈ちゃんは私の腕にぎゅって抱きついたまま、小さな声で言った。
「……想花、……絶対、無理しちゃダメだからね」
『……ありがと』
みんなの言葉が、あたたかくて、苦しくなるくらいだった。
でも私は、ちゃんと、笑っていた。