第6章 また明日
視線の先で、黒い靄(もや)の塊がぬるりと広がっていく。
『まるで、空間そのものに穴が開くみたい……』
その闇は次々と、“何か”を吐き出していた。
中心に立つ黒いスーツの男——
靄に包まれたその姿は、煙の中から生まれた影のようで、不気味に機械的な声を響かせた。
「……どうも。ご挨拶が遅れました。我々は敵(ヴィラン)連合です」
教室で感じていた空気とはまるで違う。
見えない圧が全身を締めつけ、呼吸さえも忘れてしまいそうだった。
「今日この場所には、“象徴”ことオールマイトが来ると聞いていたのですが……残念ながら、いらっしゃらないようですね」
黒霧と名乗る男の声は、冷静で落ち着いている。
その落ち着きが、逆に恐ろしくて、計画を完璧に操っていることを確信させた。
「我々の目的は、象徴の殺害です。ですが……」
目のようなものは見えないのに、
まるでこちらをじっと見つめているような圧があった。
「代わりに、あなたたち——雄英高校の生徒を始末しても構いませんね?」
『……っ!』
背筋が凍る。
13号先生が一歩、前に出る。
相澤先生はすでに前線に立ち、鋭く構えている。
「バカな……雄英に、直接敵が来るなんて……!」
誰かの声が震えていた。
そして、中央にいる全身を無数の手が覆う異様な男が、焦れたように肩をすくめた。
「おいおい、誰が説明なんてしろって言った?時間かけてる場合じゃねぇだろ、黒霧」
「……失礼」
黒霧の声が静かに響いた直後、
靄がぐわりと広がり、辺りの空間がねじ曲がるような感覚に襲われる。
「散れ」
一言で世界が歪み、重力が逆転するような感覚の中――
「っ……!」
私は何かに引きずり込まれるような恐怖とともに、
視界が真っ白に染まった——