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【ヒロアカ】re:Hero

第21章 君に贈る、ひとときの奇跡



重厚なドアが静かに閉まると、空気が変わった。

──ここは、“遊び”のない場所。

無機質な長机を挟んで、ヴィラン連合の幹部たちが席に着いている。
リ・デストロは腕を組み、スケプティックは無表情で端末を弄る。
トランペットは手帳を前に、なにかを記録していた。

連合の面々もまた、各々の定位置に腰を下ろす。
さっきまでのふざけた空気は、すっかり霧散していた。

──私もまた、その一員として席に着く。

そのときだった。

コンコン。

ノックの音が、室内に鋭く響いた。

「失礼します」

入ってきたのは──
あの軽薄そうな笑みを浮かべた、赤い翼の男。

……ホークス。

瞬間、胸の奥がかすかに揺れる。

(……なんで、今──)

けれど、その動揺は誰にも悟らせない。
指先ひとつ、視線ひとつ、乱さずに。

「おぉ、来たか」

リ・デストロの声が場を和ませるように響く。

「ヒーロー側の最新の動き、持ってきてくれたんだろう?」

「もちろんですって。仕事早いのがウリなんで」

ホークスはいつも通りの調子で軽く手を振る。
その足取りがこちらへ向かってくると同時に、
一瞬──視線がぶつかった。

ほんの一瞬だった。
彼の表情は、いつもと変わらない。

(……見られても、崩さない。私は、“カゼヨミ”)

自分に言い聞かせる。
たとえ心がさざめいても、表には何も出さない。

「No.1ヒーローの動向、各都市の警備配置、そして──雄英の再編情報。
ヒーローの再訓練が始まってるみたいですよ。焦ってるのかもしれませんね」

冗談めかしながらも、ホークスの声は明確に空間を貫いた。

スケプティックが眉をひそめ、トランペットが手帳にメモを走らせる。
リ・デストロも無言で頷いた。

私は静かに、ほんのわずかだけ頷く。
何も知らないふりをして──
ただ、情報を受け取る側の“誰か”としてそこにいた。

(……声を聞くだけで、こんなに動揺するなんて。
馬鹿みたい。そんな顔、絶対に見せられない)

彼の言葉が終わるまで、
私はただ、呼吸を整えるように、机の上に手を置いていた。
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