第21章 君に贈る、ひとときの奇跡
「……で、結局あれか。
カゼヨミがこの場の“最強”ってことで、話まとまるか?」
スピナーが苦笑混じりに肩をすくめる。
その声をきっかけに、場の空気が少しずつ、熱を失っていった。
誰かが立ち上がり、誰かがトランプを片付け始める。
「……ま、今日はこのへんにしとこっか」
コンプレスのひと言で、冗談と笑いに満ちた時間が幕を下ろす。
笑い声が遠ざかっていく。
あんなに近くに感じた体温も、嘘みたいに冷めていく。
私もそっと立ち上がった。
『……そろそろ、会議の時間』
「ですね〜。ほんと真面目ちゃんなのです、カゼヨミちゃんは」
トガの明るい声に、トゥワイスが「会議……うわ、忘れてた」と肩を落とす。
「しっかし、あんたが一番の勝者ってのが納得いかねぇよ……」
スピナーがぶつぶつ言いながら、ドアへ向かう。
その背中を追って、皆が動き出す。
──私も、それに続こうとした、そのとき。
「なぁ、カゼヨミ」
低く抑えた声が、耳元ぎりぎりをかすめた。
ふと振り返ると、すぐそこ。
至近距離に、荼毘がいた。
ほんのさっきまで、もっと遠くにいたはずなのに。
「さっきの──楽しかったな。
……おまえが、笑ってたからかもな」
にや、といつもの調子で笑いながら、
でもどこか、視線だけが真っ直ぐに射抜いてくる。
『……だから、近いってば』
とっさにそう返しそうになるのを、
ぎりぎりで飲み込む。
歩き出しても、荼毘は変わらず私の横を歩いてきた。
いや──正確には、半歩だけ、近い。
わざとじゃないふうで、でも確実にパーソナルスペースに踏み込んでくる距離。
まるで、焼けた空気のようだった。
そっと触れただけでも、火傷しそうな。
──気づいてるわけじゃ、ないよね。
内心、そんなことを思いながらも。
私は表情ひとつ崩さず、ただ前を見据えて歩く。
この空気に、飲まれるわけにはいかないから。
それでもほんの一瞬、肩にかかる視線を意識してしまったのは──
たぶん私が、まだ“あのぬくもり”を引きずっていたせい。